ROI事件ファイル No.359|『UrbanDesign社の図面という迷宮』

📅 2025-12-20 23:00

🕒 読了時間: 25 分

🏷️ ECRS


ICATCH


第一章:チェック作業という沼——2.5時間の繰り返し

PharmaLogistics社の資材情報管理事件が解決した翌日、今度は設計図面チェック業務の効率化に関する相談が届いた。第二十九巻「再現性の追求」の第359話は、無駄を削ぎ落とす物語である。

「探偵、我々の設計図面チェック作業は、1件あたり2.5時間かかります。月80件、合計200時間です。そして、チェック漏れによる手戻りが月15件も発生しています。過去図面の検索にも30分かかります。この作業を効率化したいのですが、どこから手をつければいいのか分かりません」

UrbanDesign社 の設計部長、名古屋出身の鈴木雄一は、疲弊した表情でベイカー街221Bを訪れた。彼の手には、チェックリストが印刷された分厚い資料と、それとは対照的に「改善案:なし」と記された業務分析レポートが握られていた。

「我々は、建築設計事務所です。従業員65名。年商18億円。主にマンション、オフィスビル、商業施設の設計を手がけています。設計図面の品質が、我々の生命線です。しかし、図面チェック作業が膨大な負荷になっています」

UrbanDesign社の現状: - 設立:2005年(建築設計事務所) - 従業員数:65名(設計担当45名、チェック担当8名) - 年商:18億円 - 図面チェック:月80件、1件2.5時間、合計200時間 - 問題:チェック時間が長い、手戻り多発、過去図面検索時間

鈴木の声には深い焦りがあった。

「設計図面チェックは、8名の専任チェック担当者が行っています。チェック項目は280項目。構造、設備、法規制、意匠。全てを確認します。1件あたり2.5時間。月80件で、200時間です。

そして、チェック漏れが発生します。月15件。手戻りです。設計担当者が図面を修正し、再度チェックします。さらに時間がかかります」

典型的なチェック作業の流れ:

ステップ1:図面受領(5分) - 設計担当者から図面データを受領 - フォルダに保存

ステップ2:チェックリスト準備(10分) - 280項目のチェックリストをExcelから印刷 - プロジェクト情報(物件名、階数、用途)を手書きで記入

ステップ3:構造チェック(45分) - 柱・梁の配置確認 - 耐力壁の位置確認 - 基礎の寸法確認 - チェックリストに手書きで○×を記入

ステップ4:設備チェック(40分) - 空調設備の配置確認 - 配管ルートの確認 - 電気配線の確認 - チェックリストに手書きで○×を記入

ステップ5:法規制チェック(35分) - 建築基準法の適合確認 - 消防法の適合確認 - バリアフリー法の適合確認 - チェックリストに手書きで○×を記入

ステップ6:意匠チェック(30分) - デザインの整合性確認 - 仕上げ材の確認 - 納まりの確認 - チェックリストに手書きで○×を記入

ステップ7:過去図面との比較(30分) - 類似物件の過去図面を検索 - 過去の指摘事項を確認 - 同じミスがないか確認

ステップ8:チェック結果まとめ(15分) - チェックリストの集計 - 指摘事項をWordにまとめ - 設計担当者にメール送信

合計:2.5時間(150分)

鈴木は深くため息をついた。

「そして、手戻りが発生します。チェック担当者が見逃したミス。設計担当者が修正後、再度チェック。また2.5時間。月15件の手戻りで、37.5時間が無駄になります。

過去図面の検索も問題です。サーバーに8,000件の図面が保存されています。フォルダ名は『2024_マンションA_実施設計』のような形式。類似物件を探すのに30分かかります。

この業務を効率化したいのです。しかし、何をどう改善すればいいのか。分かりません」


第二章:自動化という発想——しかし順序が違う

「鈴木さん、いきなりシステム化・自動化をしようと考えていますか?」

私の問いに、鈴木は即答した。

「はい、AIで図面を自動チェックできれば効率化できると思っています。でも、AIは本当に280項目を正確にチェックできるのか。不安があります」

現在の理解(自動化先行型): - 期待:AIで自動化すれば解決 - 問題:業務プロセスの無駄が分析されていない

私は、業務改善の4原則を順序立てて適用する重要性を説いた。

「問題は、『無駄が何か』が分かっていないことです。ECRS——Eliminate、Combine、Rearrange、Simplify。排除、結合、入替、簡素化。この順序で業務を改善します。自動化(Simplify)は最後です。まず、無駄を削ぎ落とします」

⬜️ ChatGPT|構想の触媒

「自動化の前に削除せよ。ECRSの順序を守れ。無駄を削げ」

🟧 Claude|物語の錬金術師

「業務は、いつも『なぜこの手順が必要か』を問うべきだ。E→C→R→Sの順で削ぎ落とせ」

🟦 Gemini|理性の羅針盤

「ECRSは改善の技術。Eliminate、Combine、Rearrange、Simplifyの順で業務を最適化せよ」

3人のメンバーが分析を開始した。Geminiがホワイトボードに「ECRSのフレームワーク」を展開した。

ECRSの4原則(適用順序): 1. Eliminate(排除):なくせないか 2. Combine(結合):一緒にできないか 3. Rearrange(入替):順序を変えられないか 4. Simplify(簡素化):簡単にできないか

「鈴木さん、ECRSの順序で業務を改善しましょう」


第三章:削ぎ落としという発見——無駄が見えてくる

Phase 1:Eliminate(排除)の適用(3週間)

原則:そもそも不要な作業を削除する

分析対象:280項目のチェックリスト

調査: - 過去1年間のチェック結果を分析(960件) - 各項目で指摘が発生した頻度を集計

調査結果:

頻出指摘(指摘率10%以上):35項目 - 例:「構造柱の配置が不適切」(指摘率18%) - 例:「消防設備の配置が法規不適合」(指摘率15%)

中頻度指摘(指摘率1-10%):95項目

低頻度指摘(指摘率0.1-1%):80項目

指摘ゼロ(過去1年間で1度も指摘なし):70項目 - 例:「外壁材の色が仕様書と不一致」(指摘率0%) - 例:「階段の手すりの高さが基準より低い」(指摘率0%) - 理由:設計担当者が必ず確認している項目、または自動設計ツールが計算している項目

Eliminate決定: - 指摘ゼロの70項目をチェックリストから削除 - 280項目 → 210項目(25%削減)

削減効果: - チェック時間:70項目 × 0.5分 = 35分削減(2.5時間 → 1.9時間)


Phase 2:Combine(結合)の適用(2週間)

原則:複数の作業を1つにまとめる

分析対象:8ステップのチェック作業

問題点の発見: - ステップ2:チェックリストを印刷し、プロジェクト情報を手書き - ステップ3-6:各分野(構造、設備、法規制、意匠)を個別にチェック、手書きで○×記入 - ステップ8:手書きの○×を見ながらWordに指摘事項を入力

Combine決定1:チェックリストのデジタル化 - Before:紙に印刷、手書きで○×記入 - After:Excelファイル上で直接チェック、自動集計 - 効果: - 印刷時間削減:10分 → 0分 - 手書き時間削減:15分 → 0分 - Word入力時間削減:15分 → 5分(Excelから自動転記) - 合計削減:35分

Combine決定2:分野別チェックの統合 - Before:構造→設備→法規制→意匠を個別にチェック - After:図面を見ながら全分野を同時にチェック(分野ごとに図面を開き直す無駄を削減) - 効果:図面の開き直し時間削減:20分

削減効果(Combineの合計): - 55分削減(1.9時間 → 1.0時間)


Phase 3:Rearrange(入替)の適用(2週間)

原則:作業の順序を変える

分析対象:ステップ7(過去図面との比較)の位置

問題点の発見: - 現在:全てのチェックが終わった後に過去図面を検索(30分) - 問題:過去図面で同じ指摘があった場合、既にチェック済みの項目を再確認する二度手間

Rearrange決定: - Before:ステップ7(過去図面比較)は最後 - After:ステップ1の直後に過去図面比較を実施 - 理由:過去の指摘事項を先に把握し、重点的にチェックする項目を絞る

効果: - 過去図面で指摘された項目を先に確認することで、チェック漏れ削減 - 手戻り削減:月15件 → 月5件(67%削減)

削減効果(手戻り削減による): - 手戻り10件 × 2.5時間 = 25時間/月削減


Phase 4:Simplify(簡素化)の適用(4週間)

原則:自動化・ツール化で簡単にする

分析対象:残りの作業

Simplify決定1:過去図面検索の自動化 - Before:サーバーの8,000件から手動検索(30分) - After:AI検索ツール導入(物件名、用途、階数で自動検索) - 効果:30分 → 3分(27分削減)

Simplify決定2:法規制チェックの自動化 - Before:建築基準法、消防法、バリアフリー法を手動チェック(35分) - After:法規制チェックツール導入(図面データを入力、自動判定) - 効果:35分 → 10分(25分削減)

Simplify決定3:チェックリストの自動入力 - Before:プロジェクト情報を手書き - After:設計データベースから自動入力 - 効果:既にCombineで削減済み

削減効果(Simplifyの合計): - 52分削減(1.0時間 → 0.1時間)


Phase 5:ECRS適用後の業務フロー(改善後)

新しいチェック作業の流れ:

ステップ1:図面受領(5分) - 変更なし

ステップ2:過去図面検索(3分) - AI検索ツールで自動検索 - Rearrangeで順序を変更

ステップ3:チェックリスト準備(0分) - Combineでデジタル化、自動入力

ステップ4:統合チェック(60分) - Eliminateで210項目に削減 - Combineで全分野を同時チェック - Excelファイル上で直接チェック

ステップ5:法規制チェック(10分) - Simplifyで自動化

ステップ6:チェック結果まとめ(5分) - Combineで自動転記

合計:1.4時間(83分)

改善効果: - Before:2.5時間 - After:1.4時間 - 削減:1.1時間(44%削減)


第四章:実行という成果——6ヶ月後の変化

Phase 6:ツール導入(Month 1-3)

導入ツール:

ツール1:AI図面検索システム - 開発:外部パートナーと協業 - 費用:初期300万円 - 機能:物件名、用途、階数でAI検索

ツール2:法規制チェックツール - 購入:既存製品を導入 - 費用:初期200万円、年間保守60万円 - 機能:建築基準法、消防法、バリアフリー法を自動判定

ツール3:デジタルチェックリスト - 開発:社内で構築 - 費用:50万円(外部コンサル支援) - 機能:Excelマクロで自動集計、Word自動転記

合計初期投資:550万円


Phase 7:運用開始(Month 4-6)

6ヶ月後の成果:

チェック時間の削減: - Before:2.5時間/件 × 80件/月 = 200時間/月 - After:1.4時間/件 × 80件/月 = 112時間/月 - 削減:88時間/月 = 1,056時間/年

手戻りの削減: - Before:15件/月 × 2.5時間 = 37.5時間/月 - After:5件/月 × 1.4時間 = 7時間/月 - 削減:30.5時間/月 = 366時間/年

合計削減時間: - 1,056時間 + 366時間 = 1,422時間/年

人件費削減: - 1,422時間 × 4,500円 = 639.9万円/年

品質向上効果: - 手戻り削減:15件/月 → 5件/月(67%削減) - チェック漏れによる手戻り対応コスト削減:10件 × 12ヶ月 × 5万円 = 600万円/年 (手戻りは、設計担当者の再作業、施主への説明、場合によっては設計変更の影響調査が必要)

年間総効果: - 639.9万円 + 600万円 = 1,239.9万円

投資: - 初期投資:550万円 - 運用費用:60万円/年

ROI(初年度): - リターン:1,239.9万円 - 投資:550万円 + 60万円 = 610万円 - ROI:(1,239.9万円 - 610万円) / 610万円 × 100 = 103% - 純効果:629.9万円 - 投資回収:5.3ヶ月


ECRSの効果内訳:

E(Eliminate):チェック項目70項目削除 - 時間削減:35分/件 × 80件 = 46.7時間/月 - 人件費削減:46.7時間 × 4,500円 × 12ヶ月 = 252万円/年

C(Combine):デジタル化、統合チェック - 時間削減:55分/件 × 80件 = 73.3時間/月 - 人件費削減:73.3時間 × 4,500円 × 12ヶ月 = 396万円/年

R(Rearrange):過去図面比較を前倒し - 手戻り削減:10件/月 × 12ヶ月 = 120件/年 - 対応コスト削減:120件 × 5万円 = 600万円/年

S(Simplify):AI検索、法規制自動化 - 時間削減:52分/件 × 80件 = 69.3時間/月 - 人件費削減:69.3時間 × 4,500円 × 12ヶ月 = 374万円/年

総効果(重複除く): - 人件費削減:639.9万円 - 手戻り対応コスト削減:600万円 - 合計:1,239.9万円


組織の変化:

チェック担当者Aの声: 「以前は、280項目のチェックリストを印刷し、1つずつ手書きで○×を記入していました。2.5時間かかりました。そして、チェック漏れが発生しました。

ECRSで業務を改善したことで、70項目が削除され(Eliminate)、デジタル化で手書きがなくなり(Combine)、過去図面比較を先に実施することで手戻りが減り(Rearrange)、AI検索と法規制自動化で時間が短縮されました(Simplify)。

1.4時間で完了します。44%削減です。そして、手戻りが67%減りました。チェックの質も向上しました」

設計担当者Bの声: 「以前は、チェックの手戻りで何度も図面を修正していました。月1-2回は発生していました。でも、ECRSで業務が改善されてから、手戻りがほとんどなくなりました。設計作業に集中できます」

設計部長(鈴木)の感想:

「ECRS分析を実施するまで、私たちは『AIで自動化すればすべて解決する』と考えていました。しかし、自動化(Simplify)は最後です。まず、無駄を削ぎ落とす必要がありました。

E(Eliminate):指摘ゼロの70項目を削除。C(Combine):デジタル化で手書きをなくし、統合チェックで図面の開き直しをなくす。R(Rearrange):過去図面比較を前倒しして手戻り削減。S(Simplify):AI検索と法規制自動化。

この順序が重要でした。結果、チェック時間が44%削減され、手戻りが67%削減され、年間1,239.9万円の効果を実現しました。ROI 103%、投資回収5.3ヶ月です。

ECRSの順序を守ることで、真の効率化が実現しました」


第五章:探偵の診断——順序が成果を決める

その夜、ECRS思考法の本質について考察した。

UrbanDesign社は、「AIで自動化すれば効率化できる」と考えていた。しかし、Simplify(簡素化)から始めれば、無駄を残したまま自動化することになる。

ECRSの順序——Eliminate、Combine、Rearrange、Simplify——を守ったことで、真の効率化が実現した。まず不要な70項目を削除し、次に手書きをデジタル化で統合し、過去図面比較の順序を入れ替え、最後にAIで自動化した。この順序が、チェック時間44%削減、手戻り67%削減、年間1,239.9万円の効果を生んだ。

「自動化の前に削除せよ。E→C→R→Sの順序を守れ。無駄を削ぎ落とせ。順序が、成果を決める」

次なる事件もまた、業務プロセスを最適化する瞬間を描くことになるだろう。


「Eliminate、Combine、Rearrange、Simplify。削除、結合、入替、簡素化の順で業務を改善せよ。自動化は最後だ。まず無駄を削げ」——探偵の手記より


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