ROI事件ファイル No.350|『NexusTech社の曖昧という代償』

📅 2025-12-11 23:00

🕒 読了時間: 24 分

🏷️ RFP


ICATCH


第一章:3,000万という混乱——同じシステムで見積もりが倍違う

TechSavvy社の学校AI導入事件が解決した翌日、今度はシステム開発の外注に関する相談が届いた。第二十八巻「再現性の追求」の第350話にして最終話は、要件を明確化する物語である。

「探偵、我々は顧客管理システムを外注開発したいのです。しかし、3社から見積もりを取ったら、1,500万円、2,800万円、4,500万円とバラバラでした。なぜこんなに差があるのか分かりません。どのベンダーを選べばいいのか判断できません」

NexusTech社 の情報システム部長、渋谷出身の田中雄一は、困惑した表情でベイカー街221Bを訪れた。彼の手には、3社からの見積書と、それとは対照的に「予算上限:2,500万円」と記された資料が握られていた。

「我々は、BtoB向けのマーケティング支援サービスを提供しています。年商25億円、従業員120名。しかし、顧客管理システムが古く、Excel管理が中心です。営業効率が悪く、システム刷新を決定しました」

NexusTech社の現状: - 設立:2010年(BtoB向けマーケティング支援) - 年商:25億円 - 従業員数:120名(営業30名、コンサル50名、管理40名) - 顧客数:約800社 - 問題:顧客管理がExcel中心、営業が顧客情報を共有していない、案件進捗が見えない

田中の声には深い焦燥感があった。

「現在、営業担当者それぞれがExcelで顧客を管理しています。情報共有がなく、『この顧客にはすでに別の営業がアプローチしていた』という重複が頻発します。そして、案件の進捗状況が見えません。

システム刷新を決定し、3社のシステム開発会社に相談しました。しかし、見積もりがバラバラです」

3社の見積もり:

A社:1,500万円 - 開発期間:4ヶ月 - 機能:顧客管理、案件管理、基本レポート - 備考:「クラウド型CRMをベースにカスタマイズ」

B社:2,800万円 - 開発期間:7ヶ月 - 機能:顧客管理、案件管理、営業活動記録、レポート、モバイル対応 - 備考:「スクラッチ開発、貴社の業務フローに完全対応」

C社:4,500万円 - 開発期間:10ヶ月 - 機能:顧客管理、案件管理、営業活動記録、レポート、モバイル対応、AI予測機能、外部システム連携 - 備考:「最新技術を駆使した先進システム」

田中は深くため息をついた。

「A社は安いですが、機能が不足している気がします。C社は高機能ですが、予算2,500万円を大幅に超えています。B社は中間ですが、本当にこの内容で良いのか判断できません。

そもそも、我々は『何が必要なのか』を明確にしていません。営業部門からは『顧客情報を共有したい』という要望があります。コンサル部門からは『案件進捗を可視化したい』という要望があります。管理部門からは『売上予測を自動化したい』という要望があります。全てを満たすと、予算オーバーです」


第二章:要件という曖昧さ——何が必要で何が不要なのか

「田中さん、ベンダー各社に、どのような情報を提供しましたか?」

私の問いに、田中は申し訳なさそうな表情を見せた。

「正直、曖昧な情報しか提供していません。『顧客管理システムを作りたい』『予算は2,500万円程度』『なるべく早く』という程度です。具体的な機能要件は伝えていません」

現在の状態(要件不明確型): - ベンダーへの情報提供:曖昧 - 機能要件:未定義 - 結果:見積もりがバラバラ

私は、要件を明確にし、ベンダーに正確に伝える重要性を説いた。

「問題は、『何が必要なのか』が明確でないことです。RFP——Request For Proposal、提案依頼書。システム開発の目的、現状の課題、必要な機能、予算、スケジュール。これらを明確に文書化し、ベンダーに提示します。この手法で、適切な見積もりを得て、最適なベンダーを選定できます」

⬜️ ChatGPT|構想の触媒

「曖昧なままベンダーに投げるな。要件を明確にせよ。RFPで全てを定義せよ」

🟧 Claude|物語の錬金術師

「システムは、いつも『何を作るか』より『なぜ作るか』が重要だ。目的を明確にせよ」

🟦 Gemini|理性の羅針盤

「RFPは要件定義の技術。目的、現状、機能、予算、スケジュールを文書化せよ」

3人のメンバーが分析を開始した。Geminiがホワイトボードに「RFPのフレームワーク」を展開した。

RFPの構成要素: 1. プロジェクト概要:目的と背景 2. 現状の課題:何が問題なのか 3. 機能要件:必須機能と望ましい機能 4. 非機能要件:性能、セキュリティ、運用 5. 予算とスケジュール:制約条件 6. 評価基準:ベンダー選定の指標

「田中さん、この6つの要素で、RFPを作成しましょう」


第三章:定義という明確化——6つの要素で要件を文書化

Phase 1:RFPの作成(3週間)

1. プロジェクト概要

目的: - 営業効率の向上 - 顧客情報の一元管理 - 案件進捗の可視化 - 売上予測の精度向上

背景: - 現在、Excel管理が中心で情報共有が不十分 - 営業担当者間で顧客情報が重複 - 案件進捗が見えず、管理職が状況を把握できない - 売上予測が営業担当者の勘に依存

期待効果: - 営業活動の重複削減:年間200時間削減 - 案件進捗の可視化による受注率向上:5%向上 - 売上予測精度向上:誤差率30% → 15%


2. 現状の課題

課題1:顧客情報が分散 - 営業担当者30名が個別にExcelで管理 - 800社の顧客情報が一元化されていない - 営業担当者が退職すると情報が失われる

課題2:案件進捗が不透明 - 案件がどの段階にあるか分からない - 受注見込みが営業担当者の主観に依存 - 管理職が全体像を把握できない

課題3:営業活動の重複 - 同じ顧客に複数の営業がアプローチ - 年間約50件の重複が発生 - 顧客からのクレームに繋がる

課題4:売上予測の不正確さ - 営業担当者の勘に依存 - 誤差率:平均30% - 経営判断の精度が低い


3. 機能要件

必須機能(Must Have): 1. 顧客管理 - 顧客情報の登録・編集・削除 - 顧客ごとの担当者設定 - 顧客の検索・絞り込み 2. 案件管理 - 案件の登録・進捗管理 - ステージ管理(見込み→提案→交渉→受注/失注) - 受注確度の設定 3. 営業活動記録 - 訪問記録、電話記録、メール記録 - 活動履歴の時系列表示 4. 基本レポート - 営業活動サマリー - 案件進捗レポート - 月次売上レポート 5. 権限管理 - ユーザー権限の設定(営業、管理職、管理者) - データアクセス制御

望ましい機能(Nice to Have): 1. モバイル対応 - スマートフォン・タブレットでの利用 2. 売上予測機能 - 過去データに基づく売上予測 3. 外部システム連携 - メール連携(Gmail、Outlook) - カレンダー連携

不要な機能: - AI予測機能(将来的に検討) - 高度な分析機能(BIツールで対応)


4. 非機能要件

性能: - 同時アクセス数:最大50名 - レスポンス時間:3秒以内 - データ容量:顧客800社 × 10年分のデータ

セキュリティ: - SSL/TLS通信 - ユーザー認証(パスワード + 二段階認証) - データバックアップ(日次)

運用: - クラウド型(オンプレミス不可) - 月額運用費:10万円以内 - 保守サポート:平日9:00-18:00

ユーザビリティ: - 直感的なUI - 研修期間:2日以内 - マニュアル提供


5. 予算とスケジュール

予算: - 開発費上限:2,500万円 - 月額運用費上限:10万円

スケジュール: - 要件定義:1ヶ月 - 設計・開発:5ヶ月 - テスト:1ヶ月 - 本番稼働:Month 7 - 合計:7ヶ月以内


6. 評価基準

提案内容(40点): - 機能要件の充足度(20点) - 非機能要件の充足度(10点) - 提案の具体性(10点)

実績(20点): - 同規模システムの開発実績(10点) - 導入後のサポート体制(10点)

コスト(20点): - 開発費の妥当性(10点) - 運用費の妥当性(10点)

スケジュール(20点): - 納期の妥当性(10点) - 開発体制の信頼性(10点)

合計:100点満点


Phase 2:RFPの配布と提案募集(3週間)

RFPを5社のベンダーに配布。提案書の提出を依頼した。

提出された提案: - A社:再提案 2,200万円 - B社:再提案 2,400万円 - C社:辞退(予算が合わないため) - D社:新規 2,100万円 - E社:新規 2,600万円


第四章:選定という判断——評価基準で最適なベンダーを見極める

Phase 3:提案書の評価(2週間)

評価基準に基づき、各社を採点した。

A社(クラウド型CRMベース): - 提案内容:32点(必須機能は満たすが、望ましい機能が不足) - 実績:15点(CRM導入実績は豊富) - コスト:18点(2,200万円、運用費8万円) - スケジュール:16点(6ヶ月で完成) - 合計:81点

B社(スクラッチ開発): - 提案内容:38点(全機能を満たし、業務フローに最適化) - 実績:18点(同規模システムの開発実績あり) - コスト:16点(2,400万円、運用費9万円) - スケジュール:18点(7ヶ月で完成、体制が充実) - 合計:90点

D社(パッケージカスタマイズ): - 提案内容:30点(必須機能は満たすが、カスタマイズ範囲が限定的) - 実績:12点(実績が少ない) - コスト:20点(2,100万円、運用費7万円、最安値) - スケジュール:14点(5ヶ月で完成だが、体制が不透明) - 合計:76点

E社(高機能型): - 提案内容:40点(全機能を満たし、追加提案も充実) - 実績:20点(大手企業への導入実績多数) - コスト:10点(2,600万円、予算オーバー、運用費12万円) - スケジュール:16点(8ヶ月で完成) - 合計:86点

選定結果:B社を選定


Phase 4:システム開発とリリース(7ヶ月)

Month 1:要件定義 - B社と詳細な機能仕様を策定 - 画面設計、データベース設計

Month 2-6:設計・開発 - 顧客管理機能、案件管理機能、営業活動記録機能を開発 - モバイル対応(スマートフォン・タブレット) - 売上予測機能(過去データ分析)

Month 7:テスト - 営業部門10名でパイロット運用 - バグ修正、UI改善

Month 8:本番稼働 - 全営業担当者30名に展開 - 研修:2日間


Phase 5:稼働6ヶ月後の成果

成果1:営業活動の重複削減 - Before:年間50件の重複 - After:年間5件の重複 - 削減:90% - 時間削減:50件 × 4時間/件 = 200時間/年 - 削減額:200時間 × 4,000円 = 80万円/年

成果2:案件進捗の可視化による受注率向上 - Before:受注率28% - After:受注率32% - 改善:+4ポイント - 年間商談数:1,200件 - 追加受注:1,200件 × 4% = 48件 - 平均受注額:500万円 - 売上増加:48件 × 500万円 = 2億4,000万円/年

成果3:売上予測精度向上 - Before:誤差率30% - After:誤差率16% - 改善:14ポイント - 効果:経営判断の精度向上、在庫過不足の削減

成果4:営業活動の効率化 - 顧客情報検索時間:Before 10分/回 → After 1分/回 - 営業報告書作成時間:Before 30分/回 → After 5分/回 - 年間削減時間:約600時間 - 削減額:600時間 × 4,000円 = 240万円/年


ROI計算:

投資額: - 開発費:2,400万円 - 月額運用費:9万円 × 12ヶ月 = 108万円(初年度) - 合計:2,508万円

効果(年間): - 営業活動重複削減:80万円 - 営業活動効率化:240万円 - 合計(定量的効果):320万円 - 売上増加:2億4,000万円(ただし粗利率を考慮すると実質的効果は約2,400万円)

ROI(保守的に見て定量的効果のみで計算): - (320万円 - 2,508万円) / 2,508万円 × 100 = -87.2%

しかし、売上増加を考慮した場合: - 粗利率:10%として、2億4,000万円 × 10% = 2,400万円 - 合計効果:320万円 + 2,400万円 = 2,720万円 - ROI:(2,720万円 - 2,508万円) / 2,508万円 × 100 = 8.5%

2年目以降: - 投資額:108万円/年(運用費のみ) - 効果:2,720万円/年 - ROI:(2,720万円 - 108万円) / 108万円 × 100 = 2,419%


組織の変化:

営業担当者Aの声: 「以前は、『この顧客には誰がアプローチしているのか』を確認するのに時間がかかりました。でも、今はシステムで一目瞭然です。重複もなくなり、顧客からの信頼も高まりました。そして、スマートフォンで外出先からでも情報を確認できます」

管理職Bの声: 「案件進捗がリアルタイムで見えるようになりました。『今月の受注見込みはどれくらいか』を正確に把握できます。売上予測の精度も向上し、経営判断がしやすくなりました」

田中の感想:

「最初は『とにかくシステムを作りたい』という曖昧な要望しかありませんでした。しかし、RFPを作成したことで、『何が必要で、何が不要か』が明確になりました。

必須機能、望ましい機能、不要な機能。この3つに分類したことで、予算内で最適なシステムを開発できました。そして、評価基準を設定したことで、5社の中から最適なベンダーを選定できました。

受注率が4ポイント向上し、年間2億4,000万円の売上増加を実現しました。2年目以降のROIは2,419%です。RFPがなければ、この成果は得られませんでした」


第五章:探偵の診断——曖昧さが失敗を生み、明確さが成功を生む

その夜、RFPの本質について考察した。

NexusTech社は、「顧客管理システムを作りたい」という曖昧な要望しか持っていなかった。その結果、ベンダーからの見積もりは1,500万円から4,500万円とバラバラだった。

RFPで目的、現状の課題、機能要件、非機能要件、予算、スケジュール、評価基準を明確に文書化したことで、適切な提案を得られた。そして、最適なベンダーを選定し、受注率4ポイント向上、年間2億4,000万円の売上増加を実現した。

「曖昧なままベンダーに投げるな。要件を明確にせよ。RFPで目的、課題、機能、予算、スケジュールを文書化せよ。そこに成功するシステム開発の道がある」

これで、第二十八巻「再現性の追求」の全10話が完結した。フレームワークを適用し、課題を分析し、効果を検証し、再現性を証明する。この探偵事務所の物語は、これからも続いていく。


「RFP = Request For Proposal、提案依頼書。目的、課題、機能、予算、スケジュール、評価基準を文書化せよ。明確な要件が、成功するシステム開発の起点となる」——探偵の手記より


【第二十八巻「再現性の追求」完結】

この巻では、10のフレームワークを通じて、ビジネス課題を多角的に分析し、効果を検証し、再現性を証明する手法を描いた。

次なる巻でも、また新たなフレームワークと共に、ビジネスの謎を解き明かしていくことになるだろう。


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