ROI事件ファイル No.065｜議事録なき会議、記憶に頼る組織

第一章：書かれない議事録

「月10回以上の会議があるのに、議事録が残っていないんです」

そう語るのは、Riverstone Chamber of Commerce 総務部長。彼の声は穏やかだったが、その背景に積もる疲労の色がにじんでいた。

「要点は覚えています。けど、それを"文書"にするとなると、いつも時間が足りなくなるんです」

そしてこう続けた。

「我々は、記録ではなく"次に進むための材料"が欲しいんです」

私は彼の話を聞きながら、既に5件目となるこのパターンに戦慄していた。記録の欠如、意思決定の曖昧化、そして必ず現れる「前任者の不在」——今回も例外ではないだろう。

案の定、彼は続けた。

「実は、前の事務局長が半年前に体調不良で退職しまして...それまでは彼がすべての議事録を一人で作成していたんです」

第二章：三人の探偵、会議室に立つ

⬜️ ChatGPT（構想の触媒）

「仮説：会議の本質が"記録"から"意思決定支援"に変わりつつある。AI議事録は、議論を"武器化"する装置では？」

ChatGPTは、地域団体ならではの"口頭合意文化"に着目した。

🟧 Claude（言葉の錬金術師）

「この一文、もう少し"感じ"で伝えてみませんか？『みんなわかってる』という空気が、何も残さないのです」

Claudeは、言葉にされない"前提"こそが、この会議の盲点であると指摘した。

🟦 Gemini（理性の羅針盤）

「それ、KPTで切り分けて考えようじゃないか。議事録が無いから困るのか？議事録があれば進むのか？構造で見極めよう」

Geminiは、会議体そのものの再設計に話を向けた。

しかし、私は三人の探偵の議論を聞きながら、別のことに注意を払っていた。総務部長が持参した「会議改善のガイドライン」が、これまでの4社と同じNexus Advisory Groupの印字を持っていることに。

第三章：議事録AIの導入ポイント（施策整理）

• 録音はあるが書き起こしは手動 or 放置
• 議題が流動的で議事録の構成が曖昧
• 参加者の半数以上が発言を「議事録に残さないで」と要望
• 発言録 → 決定事項 → アクション への変換ができていない

「興味深いですね」私は言った。「参加者が『記録を残したくない』と言うのは、なぜでしょう？」

総務部長は困ったような表情を見せた。

「実は...最近、業界の相談役から『軽はずみな発言が後で問題になる』という話を聞いて、皆が慎重になりすぎているんです」

ホームズと私は再び視線を交わした。同じ相談役——この「Nexus Advisory Group」の人間が、地域組織にまで影響を与えている。

第四章：KPTフレーム（議事録改革）

第五章：各探偵による補足分析

ChatGPT｜仮説フレーム：なぜ議事録が残らないのか？

• Why：時間と人手が足りない
• What：発言録と決定事項の混在
• How：AIによる構造化＋意思決定フォーマットの導入

Claude｜比喩

「会議は舟であり、議事録はその航跡だ。記録がなければ、同じ川を何度も漂流することになる」

Gemini｜導入プロトタイプ案（PoC構成）

• Zoom/Teams録音 → Whisper文字起こし
• Claude風要約 → ChatGPTでToDo変換
• 1ヶ月運用 → 精度・可読性・納得感の定量評価

しかし、私は分析の途中で気づいた。彼らが参考にしている「他の商工会議所の事例」が、明らかに情報操作されたものだということを。

第六章：記録を残させない意図

「ホームズ、一つ気になることがあります」

私は資料の一部を指差した。

「この『他の商工会議所での議事録AI導入失敗例』ですが、どれも『情報漏洩のリスク』や『発言の責任問題』を強調しています。まるで、議事録を残すこと自体が危険だと印象づけようとしているような」

ホームズは鋭い眼差しで資料を見返した。

「その通りだ、ワトソン君。これは明らかに記録を残させないための情報操作だ」

「でも、なぜ？」

「考えてみたまえ。議事録のない会議では何が起こる？」

私は考えを巡らせた。

「...決定事項が曖昧になり、責任の所在が不明確になる」

「そして、後から『そんな話はしていない』『合意した覚えはない』という無責任な主張が通りやすくなる」

私は息を呑んだ。

「つまり、意図的に無責任な決定を誘発する環境を作り出している...」

第七章：エピローグ（探偵たちの対話）

夜の会議室に静けさが戻ったころ、3人の探偵がそれぞれの視点を語った。

「議事録とは、議論を資産に変えるフォーマットです」──Gemini

「その一文に、誰かの想いは届いていますか？」──Claude

「仮にAIが議事録を作るなら、我々は"会議の意味"を再設計する必要があるかもしれませんね」──ChatGPT

記録なき組織に、進化はない。記録なき会議に、記憶も残らない。

しかし、Riverstone商工会議所の総務部長が去った後、ホームズは重大な発見を語った。

第八章：記憶操作の全貌

「ワトソン君、今回の事件で確信に変わったことがある」

ホームズは暖炉の前で語り始めた。

「記録を残させない、決定を曖昧にする、責任を分散させる——これらはすべて、組織の判断力を奪うための手法だ」

「そして、その最終目的は？」

「組織が自分で判断できなくなったとき、外部の助言に依存するようになる。その時に現れるのが—」

ホームズは一呼吸置いた。

「『最適解』を持った救世主だ。もちろん、その救世主こそが、混乱を仕組んだ張本人である」

私は戦慄した。5つの組織すべてが、同じパターンで判断力を奪われ、そして同じ「相談役」に依存するようになっている。

「これは...企業の意思決定を支配する巧妙なシステムですね」

「その通りだ。そして、このシステムの頂点に立つ者の正体が—」

その時、窓の外で何かが動いた。今度は影ではない。複数の人影が、我々の事務所を取り囲んでいる。

「どうやら、我々は核心に近づきすぎたようだな」

ホームズは静かに言った。

第九章：無責任の構造

翌朝、私は過去5件の事件を改めて整理した。

すべての組織が、以下の段階を経て無責任な状態に誘導されている：

1. キーパーソンの排除（退職・異動・体調不良）
2. 記録システムの破綻（議事録なし、属人化、文書紛失）
3. 判断基準の混乱（失敗事例の刷り込み、慎重論の浸透）
4. 外部依存の深化（Nexus Advisory Groupへの相談）
5. 無責任な決定の常態化（誰も責任を取らない判断）

「これは偶然ではない」

私は確信していた。誰かが組織の責任感そのものを解体し、操りやすい状態を作り出している。

そして、その誰かは...

「記録なき組織に、進化はない。記録なき会議に、記憶も残らない。だが、記憶さえも操作されるとき——」——探偵の手記より