📅 2025-11-10 23:00
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🏷️ RCD
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AutoForgeのダブルダイヤモンド事件が解決した翌週、今度は東京から不動産開発企業のポイントシステム刷新に関する相談が届いた。第二十五巻「確実性の追求」の第309話は、分散したデータを統合し、施策の効果を測定可能にする物語である。
「探偵、我々は5万人の会員を抱えています。ポイントカードを発行し、来場時にポイントを付与しています。しかし、誰がいつ来て、何をしたのか、全く分かりません。キャンペーンを実施しても、効果があったのか測定できないのです」
Crescent Urban Developments社 のマーケティング部長、港区出身の佐藤麻衣は困惑を隠せずにベイカー街221Bを訪れた。彼女の手には、会員カードのサンプルと、それとは対照的に「効果測定不能」と記された過去10回分のキャンペーン報告書が握られていた。
「我々は東京で不動産開発を行っています。マンション、商業施設、オフィスビル……。そして、5年前から会員制度を導入しました。モデルルーム来場でポイント付与、資料請求でポイント付与、契約でポイント付与。現在、5万人が会員登録しています」
Crescent Urban社のデータ混乱: - 設立:1995年(不動産開発) - 年間売上:180億円 - 会員数:5万人(2020年〜累計) - ポイントシステム:カード型(2020年導入) - 年間来場者数:2.2万人 - 年間契約件数:420件 - 問題:顧客行動データが分散、施策効果の測定不能
佐藤の声には深い焦りがあった。
「問題は、データがバラバラなことです。ポイントカードのデータは紙の台帳。来場記録はExcel。オンライン予約は別のシステム。物販(インテリア小物)の購入履歴は、また別のシステム。全てがバラバラで、誰が何をしたのか、統合して見ることができません」
現在のデータ管理状況:
システム1:ポイントカード台帳(紙) - 管理:モデルルーム受付で手書き記録 - 内容:会員ID、来場日、付与ポイント数 - 問題:デジタル化されていない、検索困難
システム2:来場記録(Excel) - 管理:各モデルルーム(12箇所)で個別管理 - 内容:来場者名、来場日、興味のある物件 - 問題:12個のExcelファイルが統合されていない
システム3:オンライン予約システム - 管理:Web予約サイト - 内容:予約日時、予約者名、希望物件 - 問題:来場記録と紐付いていない
システム4:EC購入履歴(物販) - 管理:ECサイト(インテリア小物販売) - 内容:購入商品、購入金額、配送先 - 問題:会員IDと紐付いていない
結果:顧客の全体像が見えない
「先月、『秋の来場キャンペーン』を実施しました。来場者に1,000ポイント追加付与。DMを5万人全員に送付しました。しかし、このキャンペーンで実際に何人が来場したのか? そのうち何人が契約したのか? 分かりません。DMは郵送費だけで200万円かかりました。でも、効果があったのか……」
「佐藤さん、現在、キャンペーンの効果はどのように測定されていますか?」
私の問いに、佐藤は答えた。
「正直、測定できていません。キャンペーン期間中の来場者数は、前月比で12%増えました。でも、それがキャンペーンの効果なのか、季節要因なのか、分かりません。誰がDMを見て来場したのか、誰が他の理由で来場したのか、区別できないのです」
現在の測定方法(曖昧): - 指標:「キャンペーン期間中の来場者数」 - 前提:「増えたらキャンペーンが成功」 - 問題:因果関係が不明確
私はデータの統合と測定の重要性を説いた。
「データがあっても、統合されていなければ、何も見えません。RCD——Record(記録)、Check(確認)、Do(実行)。この3つのサイクルを回すことで、施策のROIが測定可能になります」
「データを集めるな。データを統合せよ。RCDで、記録・確認・実行を循環させろ」
「データは石ころ。それを磨き、配置し、意味を与える者だけが、宝石を手にする」
「RCDは測定の技術。記録で事実を捉え、確認で学び、実行で改善せよ」
3人のメンバーが分析を開始した。Geminiがホワイトボードに「RCDサイクルのフレームワーク」を展開した。
RCDの3ステップ: 1. Record(記録):全ての顧客行動を統一的に記録 2. Check(確認):データを分析し、施策の効果を測定 3. Do(実行):測定結果を元に、次の施策を実行
「佐藤さん、Crescent Urbanの会員データを、RCDで統合しましょう」
Phase 1:Record(記録) - データ統合基盤の構築(3ヶ月)
まず、バラバラのデータを統合する基盤を作った。
ステップ1:会員ID体系の統一(2週間)
現状の問題: - ポイントカード:会員番号(手書き、C0001〜C50000) - 来場記録:氏名と電話番号(会員IDなし) - オンライン予約:メールアドレス - EC購入:顧客番号(別体系、E0001〜E8200)
統一方針: - 全システムで「統一会員ID」を使用 - 既存の5万人に統一IDを発行 - 新規会員は統一IDで登録
統一作業: - 紙の台帳をスキャン・OCR → デジタル化 - 氏名・電話番号・メールアドレスでマッチング - 重複・欠損データのクレンジング - 所要時間:約200時間(アルバイト5名で対応)
ステップ2:統合データベースの構築(1.5ヶ月)
導入したシステム: - クラウド型CRM(Customer Relationship Management) - 投資:初期費用180万円+月額15万円
統合したデータ: - 会員マスタ:統一ID、氏名、連絡先、登録日 - 来場履歴:来場日時、来場場所、対応スタッフ、興味物件 - オンライン行動:予約日時、閲覧ページ、滞在時間 - 購買履歴:購入商品、購入金額、購入日 - ポイント履歴:付与日、付与ポイント、利用日、利用ポイント
ステップ3:イベント設計(2週間)
全ての顧客行動を「イベント」として記録する設計を行った。
イベントの種類:
| イベント名 | 発生タイミング | 記録内容 |
|---|---|---|
| 会員登録 | 初回登録時 | 登録日、流入経路 |
| Web閲覧 | 物件ページ閲覧 | 閲覧日時、物件ID、滞在時間 |
| オンライン予約 | 予約完了時 | 予約日時、予約物件、希望日 |
| モデルルーム来場 | 受付チェックイン時 | 来場日時、来場物件、同行者数 |
| 資料請求 | 資料ダウンロード時 | 請求日時、資料種類 |
| EC購入 | 購入完了時 | 購入日時、商品、金額 |
| ポイント利用 | ポイント使用時 | 利用日時、利用ポイント、交換商品 |
| 契約 | 契約締結時 | 契約日、物件、契約金額 |
記録の粒度: 全てのイベントに「いつ、誰が、何を」を記録
ステップ4:データ統合の完了(1ヶ月)
3ヶ月後、全データが統合データベースに集約された。
統合データの規模: - 会員数:50,000人 - イベント総数:約42万件(過去3年分) - データ量:約2.8GB
可視化: - ダッシュボード構築 - 会員ごとの行動履歴を時系列で表示 - セグメント別の集計グラフ
佐藤の目が輝いた。
「初めて、顧客の全体像が見えました。この会員はWeb予約→来場→契約という流れ。この会員はEC購入だけで来場なし……。全てが繋がりました」
Phase 2:Check(確認) - データ分析とKPI測定(2ヶ月)
データが統合されたことで、初めて「確認」が可能になった。
ステップ1:過去のキャンペーン効果を再分析(2週間)
統合データを使って、過去10回のキャンペーンの効果を再測定した。
キャンペーン例:「秋の来場キャンペーン」(前月実施) - 施策:5万人全員にDM送付、来場で1,000ポイント追加付与 - コスト:DM郵送費200万円+ポイント原価相当120万円 = 320万円
再分析の結果:
来場者の内訳(1,200人): - DMを見て来場した会員:180人(15%) - DMを見ずに来場した会員:1,020人(85%)
DMを見て来場した180人の内訳: - 初来場:45人(25%) - 再来場:135人(75%)
契約者の内訳(38件): - DMを見た会員:5件(13%) - DMを見ていない会員:33件(87%)
ROI計算: - 投資:320万円 - DMを見た会員からの契約:5件 - 1件あたりの平均契約額:4,200万円 - DMを見た会員からの売上:2.1億円 - 粗利率(平均):18% - 粗利:3,780万円 - ROI:(3,780万円 - 320万円) / 320万円 = 1,081%(10.8倍)
しかし、真の問題: - DMを見ずに契約した33件(売上13.86億円、粗利2.49億円)は、キャンペーン不要だった可能性 - 5万人全員に送る必要があったのか?
佐藤は愕然とした。
「つまり、5万人に送ったDMのうち、実際に効果があったのは180人だけ……? 残りの4万9,820人には、無駄だったのですか?」
ステップ2:セグメント別の分析(1ヶ月)
RFM分析を併用し、会員を分類した。
セグメント分類:
| セグメント | 定義 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|---|
| VIP顧客 | 契約済み、継続的に来場 | 1,200人 | 2.4% |
| 優良見込 | 3ヶ月以内に来場、高関心 | 4,800人 | 9.6% |
| 有望見込 | 6ヶ月以内に来場、中関心 | 8,500人 | 17% |
| 低関心 | 1年以上来場なし、閲覧のみ | 12,500人 | 25% |
| 休眠 | 2年以上接触なし | 23,000人 | 46% |
各セグメントのDM反応率:
| セグメント | DM送付数 | 来場数 | 反応率 | 契約数 | 契約率 |
|---|---|---|---|---|---|
| VIP顧客 | 1,200人 | 42人 | 3.5% | 2件 | 0.17% |
| 優良見込 | 4,800人 | 95人 | 1.98% | 3件 | 0.06% |
| 有望見込 | 8,500人 | 43人 | 0.51% | 0件 | 0% |
| 低関心 | 12,500人 | 0人 | 0% | 0件 | 0% |
| 休眠 | 23,000人 | 0人 | 0% | 0件 | 0% |
発見: - 効果があったのは「VIP顧客」と「優良見込」のみ - 低関心・休眠セグメント(合計35,500人、71%)は反応ゼロ - 無駄なDM:35,500通 × 40円 = 142万円
ステップ3:KPI設計(2週間)
施策の効果を測定するKPIを設計した。
主要KPI: 1. セグメント別反応率:DMに反応した割合 2. 来場転換率:DM送付 → 来場の転換率 3. 契約転換率:来場 → 契約の転換率 4. ROI:施策投資に対する利益 5. 会員LTV(Lifetime Value):1会員あたりの生涯価値
KPIダッシュボード: - リアルタイム更新 - セグメント別・キャンペーン別に表示
Phase 3:Do(実行) - 測定に基づく最適化(継続的)
「確認」で得た知見を元に、次の施策を実行した。
新キャンペーン:「年末来場キャンペーン」(3ヶ月後)
Before(旧方式): - 全会員5万人にDM送付 - コスト:200万円
After(RCD方式): - VIP顧客(1,200人)にDM+電話フォロー - 優良見込(4,800人)にDM送付 - 有望見込(8,500人)にメール送付(コスト低) - 低関心・休眠(35,500人)には何も送らない
投資: - DM:6,000通 × 40円 = 24万円 - 電話フォロー:1,200件 × 3分 × 時給1,500円 = 9万円 - メール:8,500通 × 0円 = 0円 - 合計:33万円(従来の16.5%)
結果(3週間後):
来場者数: - VIP顧客:72人(反応率6%) - 優良見込:168人(反応率3.5%) - 有望見込:85人(反応率1%) - 合計:325人(旧方式の180人の1.8倍)
契約数: - VIP顧客:4件 - 優良見込:8件 - 有望見込:1件 - 合計:13件(旧方式の5件の2.6倍)
ROI: - 投資:33万円 - 売上:13件 × 4,200万円 = 5.46億円 - 粗利:5.46億円 × 18% = 9,828万円 - ROI:(9,828万円 - 33万円) / 33万円 = 29,677%(297倍)
佐藤は深く感動した。
「投資を84%削減し、成果を2.6倍にできました。これが、測定の力なのですね」
6ヶ月後の継続的改善:
Crescent Urbanは、RCDサイクルを組織文化に定着させた。
Record(記録): - 全ての顧客接点でデータを自動記録 - モデルルーム受付でQRコードスキャン → 即座にCRMに反映 - Webサイト閲覧、アプリ利用もリアルタイム記録
Check(確認): - 週次でKPIレビュー - セグメント別の反応率を比較 - A/Bテスト(DMの文面、特典内容)を常時実施
Do(実行): - 高反応セグメントに優先投資 - 低反応セグメントには休止判断 - パーソナライズ配信(興味のある物件情報のみ送付)
12ヶ月後の成果:
マーケティング効率: - DM送付数:年間60万通 → 年間9.6万通(84%削減) - 郵送費:年間2,400万円 → 年間384万円(84%削減) - 来場者数:年間2.2万人 → 年間2.9万人(+32%) - 契約件数:年間420件 → 年間612件(+46%)
ROI: - マーケティング投資:年間2,400万円 → 年間384万円 - 粗利増加:年間3.8億円(契約増加192件 × 単価4,200万円 × 粗利率18%) - ROI:(3.8億円 - 384万円) / 384万円 = 9,792%(98倍)
組織の変化: - 「全員に送る」から「効く人に送る」へ - KPIダッシュボードが朝会の議題に - 施策の成否が即座に分かる → 意思決定が高速化
佐藤の感想:
「RCDを導入するまで、我々は『なんとなく』でマーケティングをしていました。キャンペーンをして、『たぶん効果があっただろう』と思い込んでいました。
しかし、記録し、確認し、実行するサイクルを回すことで、全てが明確になりました。何が効いて、何が効かないか。誰に送るべきで、誰に送るべきでないか。
データは石ころではありません。磨けば、宝石になります」
その夜、RCDの本質について考察した。
Crescent Urbanは、5万人の会員データを持っていた。しかし、データは分散し、統合されていなかった。その結果、施策の効果が測定できず、「全員に送る」という非効率な戦略を続けていた。
しかし、RCDで「記録・確認・実行」のサイクルを回したことで、全てが変わった。データが統合され、効果が測定され、最適な施策が実行された。
「データがあっても、測定できなければ、何も見えない。RCDが、データを戦略に変える」
次なる事件もまた、RCDが測定を通じて成果を生む瞬間を描くことになるだろう。
「データを集めるな。データを統合せよ。記録し、確認し、実行せよ。RCDサイクルが、測定可能な戦略を生む」——探偵の手記より
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