ROI事件ファイル No.327|『JourneyWorks社の途切れる体験』

📅 2025-11-19 23:00

🕒 読了時間: 24 分

🏷️ JOURNEY


ICATCH


第一章:契約という終点——売ったら終わりという錯覚

Empathy DesignのEMPATHYマップ事件が解決した翌週、今度は東京から営業支援企業の顧客体験に関する相談が届いた。第二十七巻「再現性の追求」の第327話は、購買を終点ではなく始点として再定義する物語である。

「探偵、我々の営業チームは契約獲得に成功しています。月間契約数は目標を達成しています。しかし、問題があります。契約後の顧客満足度が低く、再購入率がわずか12%しかないのです。契約を取ることはできるのに、なぜ顧客は続かないのでしょうか?」

JourneyWorks社 のカスタマーサクセス部長、品川出身の田中健太は困惑を隠せずにベイカー街221Bを訪れた。彼の手には、高い契約獲得率のレポートと、それとは対照的に「契約後の離脱多発」と記された顧客分析資料が握られていた。

「我々は東京で中小企業向けの営業支援ツールを開発・販売しています。創業9年。主力商品は、営業活動を可視化するSFA(営業支援システム)です。月額5万円で提供しています。営業チームは優秀で、月平均30社と契約しています」

JourneyWorks社の顧客離脱問題: - 設立:2016年(営業支援ツール) - 年間売上:4.2億円 - 顧客数:240社(月額契約) - 月間新規契約:平均30社 - 月間解約:平均28社(解約率12%) - 再購入率:12%(契約更新・追加契約) - 問題:契約は取れるが、顧客が定着しない

田中の声には深い焦りがあった。

「問題は、契約から利用開始までの間に、顧客が離脱することです。契約後、『初期設定が難しい』『使い方が分からない』という声が多く、そのまま解約されます。営業は『契約を取る』ことだけに集中しており、その後のフォローが手薄です」

典型的な顧客の離脱パターン:

顧客A社(製造業、従業員20名):

Day 1(契約): 営業担当: 「弊社のSFAツールなら、営業活動が可視化され、受注率が向上します! 月額5万円です。初月は無料です!」

A社社長: 「それは良いですね。契約します」

契約成立


Day 3(初期設定): A社社長がログイン。管理画面が表示される。

画面: 「ようこそJourneyWorksへ。まず、ユーザー登録をしてください」

A社社長: 「ユーザー登録……? 営業担当者の名前とメールアドレスを入力……5人分? 面倒だな……」

15分後: 「設定項目が多すぎる……後でやろう」

ログアウト


Day 10(サポートからのメール): 件名:「初期設定は完了されましたか?」

本文: 「お世話になります。JourneyWorksサポートチームです。初期設定がまだ完了していないようです。お困りの点がございましたら、お知らせください」

A社社長: 「忙しくて、まだ設定できていない……メールを返すのも面倒だ」

未返信


Day 30(請求): A社に初回請求:月額5万円

A社社長: 「まだ使っていないのに、請求が来た……。しかも、設定が複雑で使えない。解約しよう」

解約手続き


結果:契約から30日で解約、利用開始すらしていない


田中は深くため息をついた。

「営業は契約を取ることに成功しています。でも、その後の顧客体験が悪いため、解約されます。月30社契約しても、月28社が解約します。差し引き2社しか増えません。このままでは、成長できません」


第二章:分断という壁——部署が顧客体験を途切れさせる

「田中さん、現在、営業とサポートの連携は、どのようになっていますか?」

私の問いに、田中は答えた。

「営業は契約を取ったら、顧客情報をサポートチームに引き継ぎます。しかし、引き継ぎは『会社名と担当者名』だけです。契約時に顧客が何を期待していたか、どんな課題を抱えているか……そういった情報は共有されません」

現在のアプローチ(部署分断型): - 営業:契約を取る(KPI:契約数) - サポート:使い方を教える(KPI:問い合わせ対応数) - 問題:顧客の期待値と実際の体験にギャップがある

私は顧客の時間を尊重する重要性を説いた。

「顧客の体験は、部署をまたいで続いています。カスタマージャーニー——認知から購入、利用、継続まで。この旅路を一本の線で描き、途切れさせないことが、満足度を高める鍵です」

⬜️ ChatGPT|構想の触媒

「売って終わるな。ジャーニーを描け。購買は物語の第一章だ」

🟧 Claude|物語の錬金術師

「顧客の時間を尊重せよ。カスタマージャーニーが、体験を滑らかにする」

🟦 Gemini|理性の羅針盤

「JOURNEYは体験設計の技術。認知・比較・決定・利用・継続の5段階で、離脱を防げ」

3人のメンバーが分析を開始した。Geminiがホワイトボードに「カスタマージャーニーのフレームワーク」を展開した。

カスタマージャーニーの5段階: 1. 認知(Awareness):顧客が商品を知る 2. 比較(Consideration):他社と比較検討する 3. 決定(Decision):購入を決める 4. 利用(Usage):実際に使い始める 5. 継続(Retention):使い続ける、追加購入する

「田中さん、JourneyWorksの顧客のカスタマージャーニーを、一緒に描きましょう」


第三章:地図という発見——感情の起伏が離脱を生む

Phase 1:現状のカスタマージャーニー分析(3週間)

顧客50社にインタビューを実施し、各段階での感情と体験を可視化した。


Stage 1:認知(Awareness)

顧客の行動: - Web広告、SNS、紹介で「JourneyWorks」を知る

顧客の感情: - 「営業活動を改善したい」(期待 ★★★★☆) - 「でも、本当に効果があるのかな?」(疑問 ★★☆☆☆)

タッチポイント: - Web広告、LP(ランディングページ)

問題点: 特になし


Stage 2:比較(Consideration)

顧客の行動: - 他社のSFAツールと比較 - JourneyWorksの資料請求 - 営業担当とのオンライン面談

顧客の感情: - 「他社より安い」(好印象 ★★★★☆) - 「営業担当が親切」(信頼 ★★★★☆) - 「初月無料なら試してみようかな」(決断 ★★★★☆)

タッチポイント: - 資料請求、営業面談

問題点: 特になし


Stage 3:決定(Decision)

顧客の行動: - 契約を決定 - 契約書にサイン

顧客の感情: - 「これで営業活動が改善される!」(期待 ★★★★★) - 「すぐに使い始めたい」(やる気 ★★★★★)

タッチポイント: - 契約書、契約完了メール

問題点: 特になし


【ここから問題発生】


Stage 4:利用(Usage)

顧客の行動: - ログイン - 初期設定を試みる

顧客の感情: - 「あれ? 設定項目が多い……」(困惑 ★★☆☆☆) - 「営業担当は『簡単です』と言ってたのに……」(裏切られた感 ★☆☆☆☆) - 「マニュアルを読んでも分からない」(苛立ち ★☆☆☆☆) - 「忙しいから、後でやろう」(先延ばし ★☆☆☆☆)

タッチポイント: - 管理画面、マニュアル(PDF)

問題点: - 初期設定が複雑 - サポートが薄い(メールのみ、電話サポートなし) - 営業担当からのフォローなし


Stage 5:継続(Retention)

顧客の行動: - 初期設定を完了しないまま、1ヶ月経過 - 請求が来る - 解約を検討

顧客の感情: - 「使っていないのに請求……」(不満 ★☆☆☆☆) - 「もう契約しなければよかった」(後悔 ★☆☆☆☆)

タッチポイント: - 請求書、解約手続き

問題点: - 利用開始すらしていない顧客が請求される - 引き留め施策なし


Phase 2:感情曲線の可視化(1週間)

カスタマージャーニーの各段階での感情をグラフ化した。

感情
 ★★★★★ │         ●●●
          │       ●    ●
 ★★★★☆ │     ●        
          │   ●            
 ★★★☆☆ │ ●              ●
          │                  ●
 ★★☆☆☆ │                    ●
          │                      ●
 ★☆☆☆☆ │                        ●●
          └─────────────────────
           認知 比較 決定 利用 継続

発見: - 決定(契約)の時点で感情はピーク(★★★★★) - 利用の時点で急降下(★☆☆☆☆) - 継続の時点で最低(★☆☆☆☆)

田中は愕然とした。

「契約時は最高の期待値だったのに、利用段階で急激に落ちています……。これが離脱の原因ですね」


第四章:接続という設計——体験を途切れさせない仕組み

Phase 3:カスタマージャーニーの再設計(2ヶ月)

各段階での離脱ポイントを解消する施策を実施した。


改善1:決定→利用の橋渡し(契約直後のフォロー)

Before: - 契約後、顧客に「ログイン情報」をメール送信 - その後は顧客任せ

After: - 契約後24時間以内に、営業担当から電話 - 「ご契約ありがとうございます。初期設定をお手伝いします。今、20分お時間ありますか?」 - 電話で一緒に初期設定を完了(所要時間:15分) - 設定完了後、「次は営業データを入力してみましょう。来週、また電話しますね」

効果: - 初期設定完了率:28% → 82%(+193%)


改善2:利用段階のサポート強化

Before: - サポートはメールのみ - 回答までに平均48時間

After: - 電話サポート開設(平日10時〜18時) - チャットサポート開設(リアルタイム回答) - 動画マニュアル作成(5分以内の短い動画10本) - 「初期設定の方法」 - 「営業データの入力方法」 - 「レポートの見方」

効果: - 問い合わせ対応時間:48時間 → 2時間(96%短縮) - 顧客の自己解決率:12% → 58%


改善3:利用→継続の橋渡し(定期フォローアップ)

Before: - 契約後、営業担当は次の契約に注力 - 既存顧客へのフォローなし

After: - 契約1週間後:営業担当から電話「使い始めていますか? 困っていることはありませんか?」 - 契約1ヶ月後:オンライン面談(30分)「レポート機能を使って、営業活動を振り返りましょう」 - 契約3ヶ月後:成果確認面談「受注率は上がりましたか? 次のステップを提案します」

効果: - 顧客満足度:2.8/5 → 4.3/5 - 解約率:月12% → 月4%(67%削減)


改善4:継続段階での価値提供(追加機能の提案)

Before: - 追加機能の提案なし - 顧客は基本機能しか使わない

After: - 3ヶ月目に「営業分析レポート」機能を提案(追加月額1万円) - 「現在の使い方だと、これだけの成果が出ています。分析レポートを使えば、さらに改善できます」 - 実際の使用データを元に、具体的なメリットを提示

効果: - 追加機能の契約率:32% - 顧客単価:月5万円 → 月6.6万円(+32%)


Phase 4:営業とサポートの連携強化(1ヶ月)

部署間の情報共有を徹底した。

新しい引き継ぎシート:

【顧客情報】
- 会社名:〇〇株式会社
- 担当者:△△様
- 契約日:2025年11月19日

【営業ヒアリング内容】
- 課題:営業活動が属人化している
- 期待:営業データを可視化し、マネジメントを改善したい
- 懸念:ITに詳しくないので、使いこなせるか不安

【初期設定サポート予定】
- 営業担当が契約翌日に電話フォロー
- 設定完了後、サポートチームに引き継ぎ

効果: - サポートチームが顧客の期待値を理解 - 個別対応が可能に


第五章:継続という成果——12ヶ月後の顧客定着

12ヶ月後の成果:

顧客指標: - 顧客数:240社 → 420社(+75%) - 月間新規契約:平均30社(変わらず) - 月間解約:平均28社 → 平均7社(75%削減) - 解約率:月12% → 月4%(67%改善) - 再購入率(追加機能):12% → 32%(+167%)

財務成果: - 年間売上:4.2億円 → 7.8億円(+86%) - 顧客単価:月5万円 → 月6.6万円(+32%) - LTV(顧客生涯価値):平均60万円 → 平均240万円(+300%)

顧客満足度: - Before:2.8/5 - After:4.3/5


田中の総括:

「カスタマージャーニーを描く前、我々は『契約を取る』ことをゴールだと思っていました。営業は契約を取ったら終わり。その後は顧客任せ。

しかし、カスタマージャーニーで顧客の感情曲線を可視化したことで、真実が見えました。契約時は期待がピークでしたが、利用段階で急降下していました。

決定から利用への橋渡し、利用から継続への橋渡し。この接続を滑らかにしたことで、解約率が67%改善しました。

購買はゴールではなく、物語の第一章です。顧客の旅路を尊重し、途切れさせないことが、真の顧客体験です」


営業担当の声:

営業A: 「以前は、契約を取ったら次の顧客に向かっていました。『契約後のフォローはサポートの仕事』だと思っていました。

でも、今は契約翌日に必ず電話します。一緒に初期設定をして、使い始めるところまでサポートします。顧客が『使える』ようになった瞬間、『ありがとう』と言われます。その言葉が、嬉しいです」

サポート担当B: 「以前は、『使い方が分からない』という問い合わせばかりでした。マニュアルを送っても、読んでもらえませんでした。

今は、動画マニュアルとチャットサポートで、即座に解決できます。そして、営業からの引き継ぎシートで顧客の期待値が分かるので、個別対応ができます」


顧客A社の声(12ヶ月後):

「JourneyWorksと契約して1年が経ちました。最初は『設定が難しそう』と不安でしたが、営業担当が電話で一緒に設定してくれました。

その後も、月1回のフォローアップで使い方を教えてもらい、今では営業チーム全員が使いこなしています。受注率が18%向上しました。

他社のツールも検討しましたが、JourneyWorksのサポートの手厚さは他にありません。もう、手放せません」


第五章:探偵の診断——旅路という体験

その夜、カスタマージャーニーの本質について考察した。

JourneyWorks社は、契約を終点だと思っていた。しかし、顧客にとって、契約は旅の始まりだった。

カスタマージャーニーで感情曲線を可視化したことで、離脱のポイントが見えた。決定から利用への橋渡しが欠けていた。利用から継続への橋渡しも欠けていた。

「購買はゴールではなく、物語の第一章だ。カスタマージャーニーが、体験を途切れさせない地図になる」

次なる事件もまた、顧客の時間を尊重する瞬間を描くことになるだろう。


「売って終わるな。旅路を描け。認知・比較・決定・利用・継続。5つの段階で感情を可視化し、離脱を防げ。購買は物語の第一章だ」——探偵の手記より


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