📅 2025-12-15 23:00
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🏷️ 5WHYS
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InspectTech社の建物検査事件が解決した翌日、今度は新規事業開発に関する相談が届いた。第二十九巻「再現性の追求」の第354話は、根本原因を掘り下げる物語である。
「探偵、我々は新規事業を立ち上げたいのです。しかし、何をすべきか決まりません。過去に多様な事業に挑戦し、成功もあれば失敗もありました。今度こそ、確実に成功する事業を見つけたいのですが、どこから手をつければいいのか分かりません」
Global Solutions社 の代表取締役、埼玉出身の高橋誠は、焦燥感と期待が入り混じった表情でベイカー街221Bを訪れた。彼の手には、過去の事業展開リストと、それとは対照的に「新規事業:未定」と記された経営会議資料が握られていた。
「我々は、現在3つの事業を運営しています。清掃事業、ウォーターサーバー事業、介護事業。従業員120名。年商32億円。それぞれの事業は安定していますが、成長が鈍化しています」
Global Solutions社の現状: - 設立:1995年(フランチャイズ事業) - 従業員数:120名 - 年商:32億円 - 事業構成: - 清掃事業(年商12億円、粗利率35%) - ウォーターサーバー事業(年商8億円、粗利率40%) - 介護事業(年商12億円、粗利率25%) - 問題:新規事業の具体案が決まらない、外部委託の経験なし
高橋の声には深い迷いがあった。
「過去に、様々な事業に挑戦しました。成功したものもあれば、失敗して撤退したものもあります。例えば、2010年にコインランドリー事業を開始しましたが、3年で撤退しました。2015年にペット用品販売を開始しましたが、2年で撤退しました。
一方、介護事業は2008年に開始し、今では年商12億円に成長しました。なぜ成功したのか、なぜ失敗したのか。明確な理由が分かりません」
過去の事業展開の履歴:
成功事例: - 2005年:清掃事業開始 → 現在年商12億円 - 2006年:ウォーターサーバー事業開始 → 現在年商8億円 - 2008年:介護事業開始 → 現在年商12億円
失敗事例: - 2010年:コインランドリー事業開始 → 2013年撤退(累積赤字2,400万円) - 2015年:ペット用品販売開始 → 2017年撤退(累積赤字800万円) - 2018年:飲食店経営開始 → 2020年撤退(累積赤字1,200万円)
高橋は深くため息をついた。
「社内では、新規事業展開に関する共通認識はあります。『次の柱となる事業を作りたい』という思いです。しかし、具体的な内容はまだ決まっていません。
そして、外部委託の経験がありません。これまで全て内製で進めてきました。最近、1社から新規事業コンサルティングの話を聞きましたが、比較検討の材料がありません。本当にこの会社に依頼すべきか、判断できません」
「高橋さん、外部コンサルに依頼すれば、新規事業が成功すると思っていますか?」
私の問いに、高橋は戸惑いを見せた。
「はい…専門家に任せれば、良い提案をしてくれると期待しています。でも、本当に我々に合った提案なのか。過去の失敗を繰り返さないか。不安があります」
現在の理解(表面的対処型): - 認識:外部コンサルに依頼すれば解決 - 問題:なぜ新規事業が決まらないのか、根本原因が見えていない
私は、問題の根本原因を5回の「なぜ」で掘り下げる重要性を説いた。
「問題は、『なぜ新規事業が決まらないのか』という根本原因が分かっていないことです。5WHYs——5回のなぜ。問題に対して『なぜ?』を5回繰り返します。表面的な原因ではなく、根本原因を発見します」
「表面を見るな。根を掘れ。5WHYsで根本原因を暴け」
「新規事業は、いつも『なぜやるのか』が曖昧なまま始まる。その『なぜ』を5回問え」
「5WHYsは原因分析の技術。表面的な症状ではなく、システムの欠陥を見つけよ」
3人のメンバーが分析を開始した。Geminiがホワイトボードに「5WHYsのフレームワーク」を展開した。
5WHYsの構造: - 問題の特定:まず解決すべき問題を明確にする - なぜ1:問題が発生する直接的な原因 - なぜ2:なぜ1の原因 - なぜ3:なぜ2の原因 - なぜ4:なぜ3の原因 - なぜ5:なぜ4の原因(根本原因)
「高橋さん、まず解決すべき問題を定義しましょう」
Phase 1:問題の特定(1週間)
問題: 「新規事業の具体的な提案が決まっていない」
Phase 2:なぜ1(1週間)
問い:新規事業の具体的な提案が決まっていないのはなぜか?
回答(表面的な原因): 「社内での経験や知識が不足しているため」
証拠: - 新規事業の立案会議:月1回開催 - 参加者:役員5名、部長3名 - 議論内容:「何か良い事業はないか」という抽象的な話 - 具体案の提出:過去1年で0件
役員Aの証言: 「会議では『何か良い事業はないか』と聞かれますが、誰も具体案を出せません。『清掃の次は何か』『介護以外の分野は』と言われても、アイデアが浮かびません」
Phase 3:なぜ2(1週間)
問い:経験や知識が不足しているのはなぜか?
回答: 「多様な事業に挑戦してきたが、一貫した新規事業開発のプロセスが確立されていないため」
証拠: - 過去の新規事業開始の経緯: - 清掃:代表がフランチャイズ説明会に参加して即決 - ウォーターサーバー:同業他社が成功していると聞いて模倣 - 介護:地域の高齢化を見て「需要があるはず」と判断 - コインランドリー:「流行っている」という情報で開始 - ペット用品:「市場が拡大している」というニュースで開始
共通点: - 市場調査なし - 競合分析なし - 自社の強みとの適合性検討なし - 事前のROI計算なし
部長Bの証言: 「これまで全て『直感』で決めていました。『これは良さそう』『流行っている』という理由です。プロセスはありません。成功したものもあれば、失敗したものもあります。運次第です」
Phase 4:なぜ3(1週間)
問い:一貫したプロセスが確立されていないのはなぜか?
回答: 「新規事業開発に関する外部支援の経験がないため」
証拠: - 外部コンサル利用実績:0回(過去20年) - 外部セミナー参加実績:年1回程度(代表のみ) - 業界団体への加盟:なし
代表(高橋)の証言: 「これまで全て内製で対応してきました。外部に頼ることを考えたことがありませんでした。『自分たちで何とかする』という文化です。しかし、限界を感じています」
Phase 5:なぜ4(1週間)
問い:外部支援の経験がないのはなぜか?
回答: 「外部委託の比較検討材料が不足しているため」
証拠: - 外部コンサル会社の知見:1社のみ(最近接触) - 他社との比較:未実施 - コンサルティング相場の理解:なし - 成功事例の情報収集:未実施
経理部長Cの証言: 「先日、あるコンサル会社から提案を受けました。『新規事業開発支援:年間800万円』というものです。しかし、これが適正価格なのか分かりません。他社と比較していないので、判断できません」
Phase 6:なぜ5(1週間)
問い:比較検討材料が不足しているのはなぜか?
回答(根本原因): 「これまで内製での解決を重視し、外部リソースの活用という選択肢を検討してこなかったため」
証拠: - 過去の意思決定パターン: - 問題発生 → 社内で議論 → 内製で解決(または放置) - 外部委託の検討:0回 - 企業文化: - 「自分たちでやる」という自負 - 「外部に頼るのは恥」という意識 - 「コストがかかる」という先入観
代表(高橋)の証言: 「振り返ると、我々は『外部に頼る』という選択肢を持っていませんでした。『自分たちでできる』と信じていました。しかし、新規事業開発は専門性が必要です。内製では限界があります」
Phase 7:根本原因の整理と対策立案(2週間)
5WHYs分析結果:
対策(根本原因への対処):
対策1:外部リソース活用の文化醸成 - 経営会議で「外部専門家の活用方針」を決議 - 役員・部長に「外部委託は恥ではなく、戦略的選択」という意識改革
対策2:複数コンサル会社との比較検討 - 新規事業開発コンサル会社:5社にコンタクト - 提案内容、費用、実績を比較 - 3社から詳細提案を受ける
対策3:新規事業開発プロセスの確立 - 選定したコンサル会社と協業 - プロセス: 1. 市場調査 2. 競合分析 3. 自社の強み分析 4. 事業案の立案(3案) 5. ROI試算 6. パイロット実施 7. 本格展開
Phase 8:コンサル会社の選定(Month 1-2)
比較検討結果:
A社: - 提案:新規事業アイデア50案提示 - 費用:年間1,200万円 - 実績:大手企業中心、中小企業実績少ない - 評価:アイデアは豊富だが、実行支援が弱い
B社: - 提案:市場調査→事業案立案→ROI試算→パイロット支援 - 費用:年間800万円 - 実績:中小企業の新規事業立ち上げ実績30件 - 評価:プロセスが明確、実行支援が強い
C社: - 提案:経営者向け研修プログラム - 費用:年間600万円 - 実績:研修専門 - 評価:研修は良いが、事業立案支援が弱い
選定結果:B社 - 理由:プロセスが明確、実行支援が強い、費用も適正
Phase 9:新規事業開発プロセスの実行(Month 3-9)
ステップ1:市場調査(Month 3-4)
対象市場: - 高齢者向けサービス市場(介護事業の隣接市場) - 住宅メンテナンス市場(清掃の隣接市場) - 健康関連市場(ウォーターサーバーの隣接市場)
調査結果: - 高齢者向け見守りサービス:市場規模1,200億円、年成長率8% - 住宅リフォーム仲介:市場規模8,000億円、年成長率5% - 宅配弁当(高齢者向け):市場規模3,500億円、年成長率6%
ステップ2:競合分析(Month 4-5)
競合状況: - 見守りサービス:大手3社が市場の60%を占有、中小企業の参入余地あり - 住宅リフォーム仲介:地域密着型が有利 - 宅配弁当:地域によって需要に差あり
ステップ3:自社の強み分析(Month 5)
Global Solutions社の強み: 1. 既存顧客基盤:清掃・ウォーターサーバーで2,800世帯 2. 介護事業のノウハウ:高齢者対応に慣れている 3. 地域密着:埼玉県内に強いネットワーク
強みを活かせる事業: - 高齢者向け見守りサービス(既存顧客へクロスセル可能)
ステップ4:事業案の立案(Month 6)
事業案:高齢者向け見守りサービス
サービス内容: - IoTセンサーで高齢者の生活状況を見守り - 異常時に家族・ケアマネージャーに通知 - 月額3,980円
ターゲット: - 一人暮らしの高齢者(75歳以上) - 離れて暮らす家族が心配している世帯
強みの活用: - 既存の清掃・ウォーターサーバー顧客にクロスセル - 介護事業のケアマネージャーから紹介
ステップ5:ROI試算(Month 6)
初期投資: - IoTセンサー開発:1,200万円 - システム構築:800万円 - マーケティング費用:500万円 - 合計:2,500万円
売上予測(3年計画): - 1年目:100世帯 × 3,980円 × 12ヶ月 = 477.6万円 - 2年目:500世帯 × 3,980円 × 12ヶ月 = 2,388万円 - 3年目:1,200世帯 × 3,980円 × 12ヶ月 = 5,731.2万円
粗利率:60%
ROI試算(3年累計): - 投資:2,500万円 - 売上:477.6万円 + 2,388万円 + 5,731.2万円 = 8,596.8万円 - 粗利:8,596.8万円 × 60% = 5,158万円 - ROI:(5,158万円 - 2,500万円) / 2,500万円 × 100 = 106% - 投資回収期間:2.3年
ステップ6:パイロット実施(Month 7-9)
対象:既存顧客50世帯 - IoTセンサーを無料貸与 - 3ヶ月間のモニター実施
3ヶ月後の結果:
利用状況: - 継続利用希望:42世帯(84%) - 満足度:NPS 68
顧客の声: 「一人暮らしの母が心配でした。でも、見守りサービスで安心できます。異常があればすぐに通知が来ます。月3,980円なら安いです」
事業化判断: - パイロット成功 - 本格展開へ
9ヶ月後の成果:
新規事業開発プロセスの確立: - 市場調査 → 競合分析 → 自社強み分析 → 事業案立案 → ROI試算 → パイロット - このプロセスを社内に定着
根本原因への対処: - 外部リソース活用の文化醸成:達成 - B社との協業により、専門知識を獲得 - 今後も外部コンサルを活用する方針
コンサル費用対効果: - コンサル費用:800万円(9ヶ月、月割り算出) - 獲得した知見:新規事業開発プロセス、市場調査手法、ROI試算手法 - 無形資産:社内にノウハウが蓄積
組織の変化:
役員Aの声: 「これまで『何か良い事業はないか』という抽象的な議論しかできませんでした。でも、B社のコンサルと一緒にプロセスを回したことで、具体的な事業案が生まれました。市場調査、競合分析、自社強み分析。このステップを踏むことで、『なぜこの事業をやるのか』が明確になりました」
代表(高橋)の感想:
「5WHYsを実施するまで、我々は『新規事業が決まらない』という表面的な問題しか見えていませんでした。しかし、5回の『なぜ』を繰り返したことで、根本原因が見えました。
『内製での解決を重視し、外部リソース活用を検討してこなかった』。これが根本原因でした。外部コンサルを活用することで、新規事業開発のプロセスが確立されました。
見守りサービス事業は、3年でROI 106%が見込まれます。そして、このプロセスを使えば、今後も新規事業を立ち上げられます。5WHYsが、我々の文化を変えました」
その夜、5WHYs思考法の本質について考察した。
Global Solutions社は、「新規事業が決まらない」という表面的な問題に囚われていた。外部コンサルに依頼すれば解決すると考えていた。
5WHYsで5回の「なぜ」を繰り返したことで、根本原因が見えた。「内製での解決を重視し、外部リソース活用を検討してこなかった」。この企業文化が、新規事業開発のプロセス不在を生み、経験・知識不足を招いていた。
「表面を見るな。根を掘れ。5WHYsで『なぜ』を5回繰り返せ。表面的な症状ではなく、システムの欠陥を見つけよ。根本原因への対処が、真の解決を生む」
次なる事件もまた、根本原因を掘り下げる瞬間を描くことになるだろう。
「なぜ1、なぜ2、なぜ3、なぜ4、なぜ5。5回の『なぜ』で根本原因を掘り下げよ。表面的な症状に対処するな。根本原因を治療せよ」——探偵の手記より
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