ROI事件ファイル No.356｜『CosmoTech社のクラウド移行という不安』

第一章:クラウド移行という決断——しかし選定基準がない

TechNova社のPower Automate活用事件が解決した翌日、今度はMicrosoft 365の運用保守に関する相談が届いた。第二十九巻「再現性の追求」の第356話は、最適な組み合わせを見つける物語である。

「探偵、我々のメールサーバーは古くなり、Microsoft 365への移行を検討中です。しかし、社内に知識がなく、セキュリティ面や運用管理に不安があります。そして、運用保守サポートを提供する企業を探していますが、何を基準に選べばいいのか分かりません」

CosmoTech社 の情報システム部長、横浜出身の田中美咲は、不安と期待が入り混じった表情でベイカー街221Bを訪れた。彼女の手には、現行メールサーバーの保守契約書と、それとは対照的に「サポート企業:候補5社」と記された比較検討シートが握られていた。

「我々は、製造業向けの計測機器を開発・販売しています。従業員150名。年商38億円。現在使用しているメールサーバーは、2010年に導入したオンプレミス型です。15年経過し、老朽化しています」

CosmoTech社の現状: - 設立:2003年(計測機器メーカー) - 従業員数:150名 - 年商:38億円 - 現行メールサーバー:2010年導入、オンプレミス型 - 問題:サーバー老朽化、知識不足、セキュリティ不安、組織変更時の負荷

田中の声には深い焦りがあった。

「メールサーバーの問題は3つあります。第一に、ハードウェアの老朽化です。故障のリスクが高まっています。第二に、セキュリティ対策の遅れです。最新の脅威に対応できていません。第三に、保守費用の高騰です。年間480万円かかっています。

そこで、Microsoft 365への移行を検討しています。クラウド化により、ハードウェアの保守が不要になり、セキュリティも向上し、コストも削減できると聞いています」

移行を検討する背景:

課題1:ハードウェアの老朽化 - 導入:2010年 - 経過年数:15年 - メーカー保守:2026年3月終了(残り15ヶ月) - 故障リスク:高(過去1年で3回のトラブル)

課題2:セキュリティ対策の遅れ - 現行対策:アンチウイルスソフトのみ - 不足している対策: - 多要素認証(MFA) - データ損失防止(DLP) - フィッシング対策 - ランサムウェア対策

課題3:保守費用の高騰 - 年間保守費用:480万円 - 内訳: - ハードウェア保守:180万円 - ソフトウェアライセンス:150万円 - 運用管理委託:150万円

課題4:組織変更時の負荷 - 組織変更:年4回(四半期ごと) - 作業:メーリングリスト変更、アクセス権限変更 - 所要時間:1回あたり8時間 - 年間:32時間

課題5:担当者の知見不足 - 情報システム部:田中1名のみ - Microsoft 365の知識:入門レベル - 第三者レビュー:なし(田中一人の判断で設定)

田中は深くため息をついた。

「Microsoft 365の運用保守サポートを提供する企業を5社リストアップしました。しかし、何を基準に選べばいいのか分かりません。

A社:月額28万円、フルサポート B社:月額18万円、基本サポートのみ C社:月額35万円、24時間365日対応 D社:月額22万円、リモートのみ E社:月額30万円、オンサイト対応あり

どの企業が我々に合っているのでしょうか?」

第二章:最安値という誤解——価格だけで選んではいけない

「田中さん、最も安いB社を選ぼうと考えていますか?」

私の問いに、田中は戸惑いを見せた。

「はい…コスト削減が目的の1つなので、安い方が良いと思っています。でも、本当にB社で大丈夫なのか。サービス内容が不十分ではないか。不安があります」

現在の理解(価格重視型): - 期待:安ければ良い - 問題:Product、Place、Promotionが考慮されていない

私は、製品・価格・流通・販促の4要素を総合的に評価する重要性を説いた。

「問題は、『価格だけで判断している』ことです。4P——Product、Price、Place、Promotion。製品、価格、流通、販促。この4つの要素を総合的に評価します。マーケティングミックスの最適化が、最良の選択を生みます」

⬜️ ChatGPT｜構想の触媒

「価格だけを見るな。4要素を見よ。4Pで最適な組み合わせを見つけよ」

🟧 Claude｜物語の錬金術師

「サービスは、いつも『組み合わせ』で価値が決まる。4つの視点で評価せよ」

🟦 Gemini｜理性の羅針盤

「4Pはマーケティングの基本。Product、Price、Place、Promotionを総合評価せよ」

3人のメンバーが分析を開始した。Geminiがホワイトボードに「4Pのフレームワーク」を展開した。

4Pの4要素: 1. Product(製品):サービス内容と機能 2. Price(価格):料金体系とコスト 3. Place(流通):サポート提供方法と対応範囲 4. Promotion(販促):信頼性と実績

「田中さん、5社を4Pで評価しましょう」

第三章:評価という発見——4Pマトリクスが最適解を示す

Phase 1:Product(製品)の評価(2週間)

評価基準: 1. 移行支援の範囲 2. セキュリティ設定の充実度 3. 運用管理の範囲 4. ユーザーサポートの有無

5社の比較:

A社(月額28万円): - 移行支援:メール、グループウェア、ファイル共有 - セキュリティ:MFA、DLP、フィッシング対策、ランサムウェア対策(全て対応) - 運用管理:組織変更対応、アクセス権限管理、月次レポート - ユーザーサポート:あり(問い合わせ窓口)

B社(月額18万円): - 移行支援:メールのみ - セキュリティ:MFAのみ - 運用管理:基本設定のみ、組織変更対応なし - ユーザーサポート:なし

C社(月額35万円): - 移行支援:メール、グループウェア、ファイル共有、Teams設定 - セキュリティ:全て対応+定期診断 - 運用管理:全て対応+24時間365日監視 - ユーザーサポート:あり(24時間365日)

D社(月額22万円): - 移行支援:メール、グループウェア - セキュリティ:MFA、DLP - 運用管理:基本対応、リモートのみ - ユーザーサポート:あり(平日9-18時)

E社(月額30万円): - 移行支援:メール、グループウェア、ファイル共有 - セキュリティ:全て対応 - 運用管理:全て対応、オンサイト訪問あり(月1回) - ユーザーサポート:あり(平日9-18時)

Product評価(5点満点): - A社:4.5点(充実したサービス内容) - B社:2点(基本のみ) - C社:5点(最も充実) - D社:3.5点(標準的) - E社:4点(オンサイト対応が魅力)

Phase 2:Price(価格)の評価(1週間)

評価基準: 1. 初期費用 2. 月額費用 3. 現行コストとの比較 4. 追加費用の有無

5社の比較:

A社: - 初期費用:180万円(移行作業) - 月額費用:28万円 - 年間コスト:180万円 + 28万円 × 12ヶ月 = 516万円 - 追加費用:組織変更対応は無料

B社: - 初期費用:80万円(メール移行のみ) - 月額費用:18万円 - 年間コスト:80万円 + 18万円 × 12ヶ月 = 296万円 - 追加費用:組織変更対応は別途見積(1回5万円)

C社: - 初期費用:250万円(全面移行+診断) - 月額費用:35万円 - 年間コスト:250万円 + 35万円 × 12ヶ月 = 670万円 - 追加費用:なし

D社: - 初期費用:120万円 - 月額費用:22万円 - 年間コスト:120万円 + 22万円 × 12ヶ月 = 384万円 - 追加費用:オンサイト対応は別途(1回8万円)

E社: - 初期費用:200万円 - 月額費用:30万円 - 年間コスト:200万円 + 30万円 × 12ヶ月 = 560万円 - 追加費用:なし

現行コストとの比較: - 現行:年間480万円 - A社:516万円(+36万円) - B社:296万円(-184万円) - C社:670万円(+190万円) - D社:384万円(-96万円) - E社:560万円(+80万円)

Price評価(5点満点、コスト削減度): - A社:3点(現行より高いがサービス充実) - B社:5点(最も安い) - C社:1点(最も高い) - D社:4点(適度な削減) - E社:2.5点(やや高い)

Phase 3:Place(流通)の評価(1週間)

評価基準: 1. サポート提供方法(リモート/オンサイト) 2. 対応時間 3. 緊急時の対応速度 4. 拠点の近さ

5社の比較:

A社: - 提供方法:リモート中心、緊急時オンサイト可 - 対応時間:平日9-18時 - 緊急対応:4時間以内 - 拠点:東京(CosmoTech横浜本社から1時間)

B社: - 提供方法:リモートのみ - 対応時間:平日9-17時 - 緊急対応:翌営業日 - 拠点:大阪(遠い)

C社: - 提供方法:リモート+オンサイト - 対応時間:24時間365日 - 緊急対応:2時間以内 - 拠点:東京(1時間)

D社: - 提供方法:リモートのみ - 対応時間:平日9-18時 - 緊急対応:6時間以内 - 拠点:東京(1時間)

E社: - 提供方法:リモート+定期オンサイト(月1回) - 対応時間:平日9-18時 - 緊急対応:4時間以内 - 拠点:横浜(CosmoTech本社と同じ市内)

Place評価(5点満点): - A社:4点(柔軟な対応) - B社:2点(リモートのみ、遠い) - C社:5点(24時間対応) - D社:3点(標準的) - E社:4.5点(地理的に近い)

Phase 4:Promotion(販促)の評価(1週間)

評価基準: 1. 実績(導入企業数) 2. 業界特化度 3. 顧客満足度 4. 情報提供の質

5社の比較:

A社: - 導入企業数:280社 - 業界:製造業50%、その他50% - 顧客満足度:NPS 68 - 情報提供:月次レポート、年次診断

B社: - 導入企業数:120社 - 業界:特化なし - 顧客満足度:NPS 52 - 情報提供:基本レポートのみ

C社: - 導入企業数:500社 - 業界:大手企業中心(上場企業60%) - 顧客満足度:NPS 72 - 情報提供:詳細レポート、ベストプラクティス共有

D社: - 導入企業数:180社 - 業界:中小企業中心 - 顧客満足度:NPS 58 - 情報提供:基本レポート

E社: - 導入企業数:220社 - 業界:製造業80%(業界特化) - 顧客満足度:NPS 74 - 情報提供:製造業特化のベストプラクティス

Promotion評価(5点満点): - A社:4点(実績十分) - B社:2.5点(実績やや少ない) - C社:4.5点(大手実績豊富) - D社:3点(中小企業向け) - E社:5点(製造業特化、高満足度)

Phase 5:4P総合評価(1週間)

4Pスコア集計(各5点満点、合計20点満点):

最高スコア:E社(16点)

E社が最適な理由: 1. Product:充実したサービス内容(4点) 2. Price:やや高いが許容範囲(2.5点) 3. Place:地理的に近く、定期オンサイト対応(4.5点) 4. Promotion:製造業特化、顧客満足度最高(5点)

選定結果:E社

第四章:導入という成果——9ヶ月後の変化

Phase 6:移行プロジェクト(Month 1-3)

移行スケジュール: - Month 1:現状調査、移行計画策定 - Month 2:テスト環境構築、データ移行 - Month 3:本番環境移行、ユーザー研修

移行対象: - メール:150アカウント、過去5年分のデータ - グループウェア:スケジュール、掲示板 - ファイル共有:SharePoint移行(500GB)

3ヶ月後の移行完了: - 移行成功率:100%(データ損失なし) - ユーザー研修:150名全員受講 - トラブル:軽微なもの2件(即座に解決)

Phase 7:運用開始(Month 4-9)

E社の月次サポート内容:

定期オンサイト訪問(月1回): - 田中とのミーティング(1時間) - システム設定レビュー - 課題のヒアリングと解決策提案

組織変更対応(年4回): - Before:田中が8時間かけて対応 - After:E社が代行、田中は確認のみ(1時間) - 削減:7時間/回 × 4回 = 28時間/年

セキュリティ設定: - MFA導入:全ユーザー150名 - DLP設定:機密情報の社外送信を自動ブロック - フィッシング対策:疑わしいメールを自動隔離 - ランサムウェア対策:OneDriveバージョン管理

月次レポート: - 利用状況(アクティブユーザー数、ストレージ使用量) - セキュリティイベント(MFA失敗、DLPアラート) - 推奨事項

9ヶ月後の成果:

コスト削減: - 現行:年間480万円 - E社:年間560万円(初年度、移行費用含む) - 差分:+80万円(初年度は増加)

しかし、2年目以降: - E社:年間360万円(月額30万円 × 12ヶ月) - 削減:480万円 - 360万円 = 120万円/年

セキュリティ向上: - Before:アンチウイルスのみ - After:MFA、DLP、フィッシング対策、ランサムウェア対策 - セキュリティスコア(Microsoft Secure Score):Before 35% → After 82%

組織変更時の負荷削減: - Before:田中が年間32時間対応 - After:田中は年間4時間のみ(確認作業) - 削減:28時間/年 - 人件費削減:28時間 × 4,500円 = 12.6万円/年

トラブル対応の改善: - Before:メールサーバー故障、復旧に8時間 - After:クラウドのため故障なし、ダウンタイムゼロ

ユーザー満足度: - Before:NPS 48(旧メールシステム) - After:NPS 68(Microsoft 365) - 改善:+20ポイント

E社を選んで良かった理由:

理由1:製造業特化のノウハウ - E社の顧客80%が製造業 - 製造業特有の課題(図面共有、取引先との機密情報のやり取り)への対応実績 - 他社事例(製造業)のベストプラクティスを提供

理由2:地理的な近さ - E社は横浜に拠点(CosmoTechと同じ市内) - オンサイト訪問が容易 - 緊急時の駆けつけも迅速

理由3:高い顧客満足度 - NPS 74(5社中最高) - 長期的な関係構築を重視

もしB社(最安値)を選んでいたら:

想定される問題: - メール移行のみ、グループウェア・ファイル共有は対応外 - セキュリティ設定はMFAのみ(DLP、フィッシング対策なし) - 組織変更対応は別途費用(年4回 × 5万円 = 20万円) - リモートのみ、緊急時の対応遅延

追加コスト試算: - 基本費用:年間296万円 - 組織変更対応:年間20万円 - グループウェア別途契約:年間80万円 - セキュリティ追加:年間60万円 - 合計:年間456万円

B社の実質コスト:年間456万円 E社のコスト:年間360万円

結論:E社の方が安い(年間96万円の差)

組織の変化:

ユーザーAの声: 「旧メールシステムは、添付ファイルが10MBまでしか送れませんでした。でも、Microsoft 365では、OneDriveで共有すれば大容量ファイルも送れます。Teamsでのチャットも便利です。業務効率が上がりました」

田中の感想:

「4Pを評価するまで、私は『最も安いB社を選ぼう』と考えていました。しかし、Product、Price、Place、Promotionの4要素を総合評価したことで、E社が最適だと分かりました。

Product:充実したサービス内容。Price:2年目以降は年間120万円削減。Place:地理的に近く、オンサイト対応。Promotion:製造業特化、NPS 74。

結果、セキュリティスコアが35%→82%に向上し、組織変更の負荷が28時間/年削減されました。そして、B社を選んでいたら、追加コストで実質年間456万円。E社の方が年間96万円安いことが分かりました。

4Pの総合評価が、最良の選択を導きました」

第五章:探偵の診断——最適解は組み合わせで決まる

その夜、4P思考法の本質について考察した。

CosmoTech社は、「最も安いB社を選ぼう」という価格重視の判断をしようとしていた。しかし、Product、Place、Promotionを考慮していなかった。

4Pで総合評価したことで、E社が最適だと判明した。Product(充実)、Price(2年目以降削減)、Place(地理的に近い)、Promotion(製造業特化)。この組み合わせが、年間96万円の実質コスト削減とセキュリティ向上を生んだ。

「価格だけを見るな。4要素を見よ。Product、Price、Place、Promotionを総合評価せよ。最適解は、組み合わせで決まる」

次なる事件もまた、マーケティングミックスを最適化する瞬間を描くことになるだろう。

「Product、Price、Place、Promotion。製品、価格、流通、販促の4要素を総合評価せよ。価格だけで選ぶな。最適な組み合わせが、真の価値を生む」——探偵の手記より

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