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要約カード

JA 2026-04-01 23:00
STPIT業務効率化

TechNova社のAI基幹システム構築依頼。STPが照らし出した、パートナー選定という名の迷宮と、問いを持たない選定がもたらす六ヶ月の空白。

ROI事件ファイル No.461『設計図のない入札』

JA 2026-04-01 23:00

ICATCH

設計図のない入札


第一章:六ヶ月間、何も決まらなかった

「ベンダーを探しているのですが、どこに頼めばいいか、もう分からなくなってしまいました」

TechNova社のIT推進担当、中村誠氏は、そう言いながら分厚いファイルをテーブルに置いた。見積書が十数枚、挟まれていた。金額はバラバラだった。最安値と最高値で、四倍以上の開きがある。

「いつから選定を始めていますか」と私は尋ねた。

「六ヶ月前です」と中村氏が答えた。「SFA、CRM、MA、在庫管理、生産管理、原価管理——現在バラバラに動いているシステムを一元化したい。それが出発点でした。AIも活用したい。ただ、どういう会社に頼むべきかの軸がなく、とにかく声をかけられるところに声をかけた結果、この状態です」

「六ヶ月で、何件に打診しましたか」とClaudeが確認した。

「十七件です」と中村氏が即答した。「担当は私と、もう一名。二人で週二回のベンダー打ち合わせをこなしながら、社内調整もやっていた。経営層への報告も毎月入れていた。でも、まだ一社も決まっていない」

その言葉の重さを、私は静かに受け取った。六ヶ月。週二回の打ち合わせ、一回三時間。社内調整が週五時間。担当二名の時給換算で、選定作業だけで月八十時間が溶けている。経営層が加わる報告会を含めれば、さらに膨らむ。

「問いが決まっていなかったんですね」とGeminiが言った。「どこに頼むかを考える前に、誰に頼むかの基準がなかった」

中村氏が静かに頷いた。「そういうことだと思います。今日来たのは、その基準を作るためです」

第二章:STPが問う三つの絞り込み

「この案件には、STPが必要です」

Claudeがホワイトボードに三つの文字を書いた。S・T・P。

「STPとは、Segmentation(セグメント化)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の三段階で、最適な相手を絞り込むフレームワークです」と私が説明した。「本来はマーケティングで使われますが、ベンダー選定にも同じ論理が使えます。十七社に横並びで声をかけることは、絞り込みの放棄です。STPは、声をかける前に地図を描く作業です」

「まず現状を整理させてください」とGeminiがROI Polygraphを開いた。中村氏から提供されていた選定作業の業務ログを入力する。結果が返ってきた。

「六ヶ月間の選定作業工数が出ました」とGeminiが画面を見ながら言った。「担当二名で月平均八十時間。時給三千五百円で換算すると、月二十八万円。六ヶ月で百六十八万円が、選定作業だけに使われています。経営層の報告対応を加えると、さらに月八万円が加算される試算です」

中村氏の顔色が変わった。「金額で見たことがなかった」

「選定の非効率が、最初のコストです」と私が続けた。「ではSTPで、残りのコストを止めましょう」


[S——Segmentation:候補を分類する]

「十七社を、三つの軸で分類してください」とClaudeが言った。「第一軸は、基幹システム統合の実績があるか。第二軸は、AI開発の実績があるか。第三軸は、製造業への導入経験があるか。この三軸で分けると、どうなりますか」

中村氏がリストに目を走らせた。「三軸全て揃っているのは——二社です」

「そこから始まります」とClaudeが続けた。「残り十五社は、一軸か二軸しか持っていない。それはセグメントの外です。声をかける前にこの分類を作っていれば、打ち合わせ回数は最初から三分の一以下になっていた」

「セグメントを切ることは、相手を否定することではありません」と私が補足した。「今の段階で解決すべき問いに、最も近い位置にある会社を見つける作業です。問いが変われば、セグメントも変わります」


[T——Targeting:一社を選ぶ基準を作る]

「次に、絞り込んだ二社をどちらに決めるかの基準を作ります」とGeminiが続けた。「ここで使う軸は四つです。実績の深さ、提案の具体性、コミュニケーションコスト、投資回収期間の試算精度。それぞれに重みをつけて点数化します」

ROI Proposal Generatorで試算を出しましょう」と私が提案した。二社のそれぞれの提案書をもとに、投資回収期間を試算する。

A社:初期費用二千二百万円、月次保守五十万円、ROI回収期間試算二十六ヶ月。 B社:初期費用千八百万円、月次保守六十五万円、ROI回収期間試算二十九ヶ月。

「初期費用はB社が安いが、月次コストを含めると三年目以降はA社の方がトータルで低くなります」とGeminiが補足した。「加えて、A社は製造業向けの類似案件で平均工期が十四ヶ月。B社は十八ヶ月。四ヶ月の差は、月二十八万円の選定コストが続くリスクでもある」

「つまり、A社を選ぶ根拠が数字で出た」と中村氏が言った。

「ターゲットが決まりました」とClaudeが静かに言った。


[P——Positioning:どう伝えるかを設計する]

「最後のポジショニングは、選んだ相手にどう期待を伝えるか、です」と私が続けた。「ベンダー選定でよくある失敗は、要件定義を相手に丸投げすることです。TechNova社として、何を最優先で解決したいかを一枚のメッセージに整理して渡す」

「優先順位は三つです」とClaudeが提案した。「第一に、データの一元化——バラバラなシステムをつなぐ基盤を作ること。第二に、AIが乗れる構造を最初から設計すること。第三に、現場が使える画面を最優先にすること。この三つを、最初のキックオフで明文化して合意する。これがポジショニングです」

「それを言語化せずに動いていたのが、六ヶ月の迷走の正体でした」と中村氏が言った。

「そうです」と私が応じた。「ポジショニングは、相手への説明ではなく、自分たちへの宣言でもあります」

第三章:六ヶ月分の答え

「STPで整理した結果を、ROI Proposal Generatorで最終的な比較試算にまとめましょう」と私がホワイトボードの前に立った。

選定作業の現在コストと、STP適用後のコスト。

  • STP適用前:月八十時間の選定作業×時給三千五百円=月二十八万円、六ヶ月で百六十八万円消費済み
  • STP適用後:絞り込みにより打ち合わせが月二回以下に圧縮、月工数三十時間、月コスト十万五千円
  • 削減効果:月十七万五千円、年間換算二百十万円

「この数字が、STPを最初に使うべきだった理由です」とGeminiが締めた。「正しい問いを持って市場に出ると、かかる時間が変わります。時間が変わると、コストが変わります。ベンダー選定は、相手を選ぶ作業ではなく、自分たちの問いを明確にする作業です」

中村氏が深く頷いた。「来週、A社にキックオフの日程を押さえます。最初に渡す資料に、三つの優先順位を書いて持っていきます」

「パイロットフェーズは三ヶ月を設定してください」とClaudeが付け加えた。「最初の機能をデータ一元化基盤に絞り、そこから始める。全機能を一度に動かそうとすると、また迷宮に入ります」

第四章:設計図ができた日

中村氏が帰り際、十数枚の見積書をファイルに戻しながら言った。

「十七社、全部に時間をかけて話を聞きました。それ自体は無駄ではなかったかもしれない。でも——話を聞く前に、地図が必要でした」

「STPは地図を描くフレームワークです」と私が応じた。「市場に出る前に、誰に向かうか、なぜその相手なのか、何を伝えるかを決める。その順序を逆にすると、十七社に声をかけて六ヶ月が過ぎる。地図を持って歩くと、目的地への道が短くなります」

窓の外では、夕暮れの空が都市のビル群を橙色に染めていた。

五ヶ月後、中村氏から報告が届いた。

A社とのキックオフから三週間でデータ連携基盤の要件定義が完了。第一フェーズの稼働は予定より二週間早い十一ヶ月目に実現した。選定作業の工数は、STP適用後に月三十時間以下に圧縮され、プロジェクト開始後の社内調整コストも六ヶ月前比で四十パーセント減少した。

中村氏の報告書には、最後にこう記されていた。「ベンダーを選ぶ前に、自分たちが何を選ぼうとしているのかを決める必要があった。STPは、相手を絞るためのフレームワークではなく、自分たちの問いを絞るためのフレームワークでした」

設計図のなかった入札に、ようやく設計図ができた日だった。

「ベンダー選定は、相手を探す作業ではない。自分たちの問いを見つける作業だ。STPが問う三つの絞り込み——誰に向かうか、なぜその相手か、何を伝えるか——は、市場に出る前に答えるべき問いだ。問いを持たずに十七社に声をかけると、六ヶ月と百六十八万円が消える。問いを持って二社に絞ると、五ヶ月で設計図ができる。正しい問いは、正しい相手を引き寄せる」


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