📅 2025-06-29
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🏷️ RPA 🏷️ 業務効率化 🏷️ 属人化 🏷️ 製造業 🏷️ データ自動化
「月に50件以上…同じようなExcelファイルを処理しています」
訪れたのは、Voltbridge Technologies 業務革新部のマネージャー。名刺の裏には「生産管理データの標準化推進担当」と印字されている。
「一つひとつの作業は地味です。でも、それが積もると毎月丸3日分の稼働になります。人手不足の中で、これはかなり痛い」
彼は深いため息をついた。
「本音を言えば、"人がやらなくていい仕事"だとは分かっているんです。ただ、"変える"となると…組織が動かない」
私は彼の話を聞きながら、過去2日間の相談案件との奇妙な符合に気づいていた。変革への躊躇、意思決定の停滞、そして決まって語られる「前任者の退職」——これで3件目である。
「なるほど、君たちの問題は"作業量"ではないな」
ホームズは業務一覧を眺めながら言った。
「これは"変えたくても変えられない文化"の問題だ」
「つまり、人ではなく"判断"が仕事をしている状態だ。そして判断の形式知化が放置されている」
私は資料を詳しく見ていて、あることに気づいた。前年度まで「RPA導入推進チーム」が存在していたが、チームリーダーが4ヶ月前に転職している。そして、その後から急に「変革への抵抗」が強くなったという。
「興味深いですね、ホームズ。この転職のタイミングが—」
「ああ、私も同じことを考えていた。誰かが意図的に変革の芽を摘んでいる可能性がある」
「RPAは優秀なロボットだが、判断できない」
ホームズは小さな機械仕掛けの人形を見せながら言った。
「RPA導入とは、まず"繰り返し可能な処理"を定義する作業から始まる。つまり、"例外を排除する勇気"が必要なんだ」
彼が示したステップはこうだ:
「RPAは"業務の鏡"だ。整理されていない業務は、RPAにすら拒絶される」
だが、Voltbridge社のマネージャーが持参した「過去のRPA導入失敗事例集」を見ると、どれも似たような失敗パターンが並んでいる。まるで誰かが、失敗のテンプレートを各企業に配布しているかのように。
項目 | 現状 | 改善方針 | 長期展望 |
---|---|---|---|
Keep | ・各担当者の処理ノウハウ ・現場の改善意識 ・部門間の協力関係 |
・ベテランの知見を形式知化 ・段階的自動化の理解 |
・判断ルールの社内ライブラリ化 |
Problem | ・処理フローの属人化 ・非標準ファイルの乱立 ・例外対応が多すぎて自動化不能 |
・現場ヒアリングの不足 ・PoC時の失敗経験が影響 |
・全社で自動化を信じていない構造 |
Try | ・1業務単位でのPoC開始 ・RPA導入ガイドライン整備 ・非構造データのルール化 |
・RPA+AI-OCRの併用検証 ・属人業務→判断ツリーの可視化 |
・月間100時間削減の実現と再投資 |
「このExcelファイル、名前が"最後の_納品データ_修正済(田中).xlsx"とは…実に人間らしい」
ホームズは小さく笑った。
「AIやRPAは、"心当たり"を持たない。だからこそ、誰でも理解できるルールが必要なんだ」
私は彼の机の上にある資料を見て、ふと気づいた。
「ホームズ、この失敗事例集ですが、どれも同じコンサルティング会社が関わっているようですね」
ホームズは鋭い目つきで資料を見返した。
「そして、そのコンサルタントは決まって『段階的な導入』を提案し、結果的にプロジェクトを長期化させている。興味深いパターンだ」
Voltbridgeのマネージャーは、最後にこう言った。
「本当に変えたいのは、仕組みだけじゃなく"動かない空気"なんです」
ホームズは深く頷いた。
「それならまず、"小さな成功体験"を作り出すことだ。自動化のROIは、数字ではなく"動いたという実感"から始まる」
しかし、私には別の懸念があった。
「ホームズ、もしこの"動かない空気"が人為的に作られているとしたら?」
「つまり、失敗を恐れる文化を意図的に植え付けることで、企業の変革を阻む者がいるということか」
ホームズは暖炉を見つめながら言った。
「その可能性は十分にある。変革を恐れる企業は、外部依存を強め、結果的に誰かの利益となる」
その夜、私は3つの事件の共通点を整理していた。
すべてに共通するのは、変革への意欲を削ぐ何らかの力の存在だった。
そして、それぞれの企業が相談に持ち込む「失敗事例」や「競合情報」が、まるで同じ出所から来ているかのような類似性を持っている。
「これは偶然ではない」
私は確信を深めていた。誰かが企業の意思決定を麻痺させ、無責任な判断に追い込む仕組みを作り上げている。
窓の外では、また黒い影がゆらめいていた。今度ははっきりと見えた。我々の事務所を監視している者がいる。
翌朝、ホームズが重大な発見を告げた。
「ワトソン君、昨夜調べたところ、興味深い事実が判明した」
「どのような?」
「この3社に共通する"失敗を恐れる文化"だが、どれも同じ組織コンサルティング手法に基づいている。そして、その手法を広めた人物は—」
ホームズは一呼吸置いて言った。
「表向きは"慎重な変革"を推奨するが、実際には変革そのものを停滞させる効果を持つ。これは偶然の一致ではない」
私は背筋に寒気を感じた。
「つまり、企業の判断力を意図的に奪い、無責任な決定へと誘導する者がいるということですか?」
「その通りだ。そして、この手法の真の目的は...まだ見えない。だが、確実に言えることがある」
ホームズは窓の外を見つめながら続けた。
「我々は、巧妙に仕組まれた罠の中を歩いている」
「変革の第一歩は、作業を見つめ直す勇気である。だが、その勇気を奪う者がいるならば——」——探偵の手記より