ROI事件ファイル No.064|つながらない組織、止まる現場

📅 2025-06-30

🕒 読了時間: 11 分

🏷️ ワークフロー 🏷️ 属人化 🏷️ 医療業界 🏷️ 業務改善 🏷️ SaaS導入


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第一章:100人の足並み

「100名が使えるワークフローを探してるんです」

Civitas OrthoWorksの総務部長は、資料一式とともにベイカー街221Bを訪れた。医療現場と営業、管理部門の間で交わされる"指示メモ"や"紙の稟議書"の山に、私は思わず目を細めた。

「うちは"人の優しさ"で回ってるんですよ。でも、だからこそ属人化がひどくて…担当者が休むと一気に止まるんです」

その言葉には、現場を思うがゆえの葛藤がにじんでいた。

しかし、私は既に警戒していた。これで4件目——すべて同じパターンで始まる相談だった。組織の混乱意思決定の麻痺、そして決まって現れる「前任者の突然の退職」。

案の定、彼の口から出た言葉は予想通りだった。

「実は、IT推進室長が3ヶ月前に急に辞めまして…それ以来、デジタル化の話が進まなくなってしまったんです」


第二章:非構造の支配

「メール、紙、電話、LINE…これはまるで"見えない迷路"だな」

ホームズは彼らの業務マップを一望し、静かに言った。

「これは"非構造の支配"だ。しかもその混沌を"善意"が回しているからタチが悪い」

私は資料を見ながら、ある違和感を覚えた。彼が持参した「ワークフロー改善提案書」の文体や構成が、過去3社のものと酷似している。まるで同じ人物が作成したかのように。

「ホームズ、この提案書ですが...」

ホームズは資料を一瞥し、鋭い目つきで答えた。

「気づいたか、ワトソン君。これは同じテンプレートで作られている。興味深いことに、どの提案も『段階的導入』と『現場の抵抗への配慮』を強調している」


第三章:共通言語を持たぬ組織

「SaaSを導入しても、動かない組織がある。その共通点は"言語の不統一"だ」

ホームズは黒板に3つの領域を描いた。

「この3者が"ワークフロー"を共有するには、プロセスの翻訳者が必要だ」

しかし、私は別のことが気になっていた。彼の話に出てくる「他社の失敗事例」が、我々が過去に相談を受けた企業の状況と完全に一致している。

「総務部長さん、この失敗事例の情報は、どちらから入手されたのでしょうか?」

彼は少し困ったような表情を見せた。

「実は...業界のコンサルタントから聞いた話で。とても詳しい方で、無料で相談に乗ってくれるんです」

ホームズと私は視線を交わした。同じコンサルタント——この影が、すべての事件に関わっている。


第四章:KPTフレーム(ワークフロー改革の設計図)

項目 現状 改善方針 長期的ビジョン
Keep ・現場同士の信頼関係
・顧客ニーズへの柔軟対応
・部署をまたいだ助け合い文化
・業務内容そのものの柔軟性 ・分断のない"つながる組織文化"
Problem ・指示ルートの複線化
・承認フローの属人化
・履歴のトレーサビリティ欠如
・非デジタル領域との共存難易度高 ・現場とIT担当の分断
Try ・最小ユニットでのSaaS導入PoC
・各部門代表による業務棚卸会議
・"紙→デジタル変換点"の明示
・通知設計とUI習熟支援
・業務プロセスの可視化ワークショップ
・誰でも見える、誰でもわかる業務文化へ

第五章:探偵のシステム翻訳論

「ワークフローとは、言語の統一である」

ホームズは書類の山を前に静かに語った。

「現場の"お願い"を、営業の"希望"に翻訳し、それを管理部門の"承認条件"に変換する。この翻訳装置こそが"ワークフロー"なのだ」

その時、私は決定的な証拠を発見した。

「ホームズ、ご覧ください。この資料の隅に印刷されている文字を」

そこには小さく「Nexus Advisory Group」という文字が印刷されていた。過去3社の資料にも、同じ印刷会社の透かしが入っている。

Nexus Advisory Group...」ホームズは呟いた。「ついに尻尾を掴んだな」


第六章:すべての声が届く仕組み

Civitasの担当者は、最後にこう言った。

「人が優しいから回ってる…でもそれに甘え続けると、誰も休めなくなるんです」

ホームズは頷いた。

「だからこそ、優しさを"仕組み化"する時だ」

しかし、彼が去った後、ホームズは重大な発見を語った。

「ワトソン君、興味深い事実がある。彼が『無料相談』を受けたというコンサルタントは、必ず同じ提案をしている」

「どのような?」

「『現状維持こそが最も安全な選択』という思想だ。一見合理的に聞こえるが、実際には企業の判断力を麻痺させる効果がある」


第七章:善意を利用する悪意

属人化の中にこそ、仕組み化の芽がある。

しかし、その夜私は戦慄すべき真実に気づいた。

これまでの4社すべてが、人の善意に依存した組織だった。そして、その善意こそが組織の弱点となり、外部からの操作を受けやすくしている。

  1. Espol社:ブランドへの情熱と美意識
  2. Oceantrail社:地域への愛着と責任感
  3. Voltbridge社:現場への配慮と協調性
  4. Civitas社:患者への使命感と助け合い精神

「ホームズ、これらの企業はすべて...」

「そうだ、ワトソン君。良心的な組織ほど、この陰謀の標的になりやすい。なぜなら、責任感の強い人間ほど『慎重な判断』という名の決定回避に陥りやすいからだ」


第八章:Nexus Advisory Groupの正体

翌朝、ホームズの調査で衝撃的な事実が判明した。

「Nexus Advisory Group」は実在しない会社だった。しかし、この名前で活動するコンサルタントは、業界内で広く知られている。

「彼らの手口はこうだ」ホームズは説明した。

「優良企業に接触し、『無料の業界動向レポート』を提供する。そのレポートには巧妙に失敗事例が織り込まれ、企業の変革意欲を削ぐ。そして『慎重な検討』という名の決定の先送りを推奨する」

「その結果は?」

「企業は判断を下せなくなり、外部依存を深める。最終的には、誰かにとって都合の良い無責任な決定を下すことになる」

私は身震いした。

「つまり、善意の組織を狙い撃ちにして、その判断力を奪う...これは一体何のために?」

ホームズは窓の外を見つめながら答えた。

「それが真の目的だ、ワトソン君。まだ全貌は見えないが、これは確実に大きな計画の一部である」

街には、再び黒い影が踊っていた。今度は複数の影が、まるで我々を取り囲むように。


「ワークフローとは、善意を再現可能にする技術である。だが、その善意が悪用されるとき——」——探偵の手記より

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