📅 2025-11-05 23:00
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🏷️ PPM
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MeatSupplyのBSC事件が解決した翌週、今度は茨城から非鉄金属加工企業のシステム刷新に関する相談が届いた。第二十四巻「再現性の証明」の第299話は、限られた投資予算を最適配分するために、事業の位置づけを冷徹に見極める物語である。
「探偵、我々のシステムが限界です。15年前に導入したオンプレミスの販売管理システム。保守が困難で、拠点が増えても対応できません。全面刷新したいのですが、投資額は1.8億円。全事業部で刷新する予算はありません。どこから手をつけるべきか……」
Metalix社 の情報システム部長、つくば出身の田村浩二は苦悩を隠せずにベイカー街221Bを訪れた。彼の手には、老朽システムの障害記録と、それとは対照的に「投資優先度未定」と記された稟議書が握られていた。
「我々は茨城で非鉄金属の加工を行っています。銅、アルミ、ステンレス。3つの事業部があります。販売管理システムは全社共通ですが、15年の老朽化で悲鳴を上げています」
Metalix社のシステム危機: - 設立:1982年(非鉄金属加工) - 年間売上:52億円 - 従業員数:180名 - 事業部:①銅加工、②アルミ加工、③ステンレス加工 - 拠点数:5拠点(5年前は2拠点) - 販売管理システム:2010年導入(15年経過) - システム障害:月平均12件 - 保守費用:年間1,200万円(導入時の3倍) - 刷新の見積もり:1.8億円(全社)
田村の声には深い焦りがあった。
「問題は、全事業部を一度に刷新する予算がないことです。経営会議で、営業部長は『銅加工から刷新すべき』と言います。製造部長は『アルミ加工が優先』と言います。財務部長は『最も売上が大きいステンレス加工』と言います。誰の意見が正しいのか、判断できません」
直近の経営会議(第3回)の記録:
銅加工事業部長: 「銅は我々の創業事業です。ここが止まれば会社が傾きます。優先すべきです」
アルミ加工事業部長: 「アルミは成長市場です。今投資すれば、将来のリターンが大きい」
ステンレス加工事業部長: 「ステンレスは売上の50%を占めます。最大事業を優先するのが当然」
財務部長: 「どれも理由はあります。でも、全部に投資する予算はありません。どうやって決めるのですか?」
結果:結論出ず、第4回会議へ持ち越し
「感情論では決められません。客観的な基準が必要なのですが……」
「田村さん、現在の投資判断は、どのような基準で検討されているのでしょうか?」
私の問いに、田村は答えた。
「基本的には『声の大きさ』です。各事業部長が自分の事業を優先すべきと主張します。客観的なデータはありますが、どう解釈すればいいのか分かりません」
現在の判断プロセス(主観的): - 基準:各事業部長の主張 - データ:あるが活用されていない - 問題:感情論で議論が収束しない
私は事業ポートフォリオの重要性を説いた。
「投資判断は、感情ではなく戦略で決めます。PPM——プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント。市場成長率と相対的市場シェア。この2つの軸が、投資の優先順位を明確にします」
「感情で投資するな。PPMで、事業を4象限に配置せよ」
「花形に投資し、金のなる木から資金を得る。問題児は見極め、負け犬は切る。それが戦略だ」
「PPMは配分の科学。市場成長率とシェアの2軸で、花形・金のなる木・問題児・負け犬に分類せよ」
3人のメンバーが分析を開始した。Geminiがホワイトボードに「PPMマトリクスのフレームワーク」を展開した。
PPMの4象限: - 花形(Star):高成長・高シェア → 積極投資 - 金のなる木(Cash Cow):低成長・高シェア → 資金源として維持 - 問題児(Question Mark):高成長・低シェア → 選択的投資 - 負け犬(Dog):低成長・低シェア → 撤退検討
「田村さん、Metalixの3事業をPPMで配置し、投資の優先順位を決めましょう」
Phase 1:市場成長率の算出(2週間)
各事業が属する市場の成長率を調査した。
銅加工市場: - 2019年市場規模:2,400億円 - 2024年市場規模:2,280億円 - 年平均成長率:-1.0%(縮小市場)
アルミ加工市場: - 2019年市場規模:1,800億円 - 2024年市場規模:2,520億円 - 年平均成長率:+7.0%(成長市場)
ステンレス加工市場: - 2019年市場規模:3,200億円 - 2024年市場規模:3,360億円 - 年平均成長率:+1.0%(微成長市場)
Phase 2:相対的市場シェアの算出(2週間)
各事業のシェアを、最大競合と比較した。
銅加工事業: - Metalixの売上:12億円 - 最大競合(A社)の売上:18億円 - 相対的シェア:12÷18 = 0.67(低シェア)
アルミ加工事業: - Metalixの売上:14億円 - 最大競合(B社)の売上:10億円 - 相対的シェア:14÷10 = 1.40(高シェア)
ステンレス加工事業: - Metalixの売上:26億円 - 最大競合(C社)の売上:22億円 - 相対的シェア:26÷22 = 1.18(高シェア)
Phase 3:PPMマトリクスへの配置
2つの軸でマトリクスを作成した。
高シェア(1.0以上) 低シェア(1.0未満)
高成長 ┌─────────────┬─────────────┐
(+5% │ │ │
以上) │ 【花形】 │ 【問題児】 │
│ アルミ加工 │ │
│ (成長率+7%) │ │
│ (シェア1.40) │ │
├─────────────┼─────────────┤
低成長 │ 【金のなる木】 │ 【負け犬】 │
(+5% │ ステンレス加工 │ 銅加工 │
未満) │ (成長率+1%) │ (成長率-1%) │
│ (シェア1.18) │ (シェア0.67) │
└─────────────┴─────────────┘
田村は愕然とした。
「創業事業の銅加工が……『負け犬』……」
Phase 4:各事業の戦略方針決定
PPMに基づき、各事業への投資戦略を決定した。
【花形】アルミ加工:最優先投資 - 市場は成長、シェアも高い - 将来の金のなる木候補 - 戦略:システム刷新を最優先、さらなるシェア拡大
投資方針: - システム刷新:フル機能で実施(投資額8,000万円) - 営業体制強化:人員+3名 - 生産能力増強:設備投資
【金のなる木】ステンレス加工:維持と効率化 - 市場は微成長、シェアは高い - 安定的な収益源 - 戦略:システムは最低限の刷新、効率化でコスト削減
投資方針: - システム刷新:必要最小限(投資額4,500万円) - 現状維持、新規投資は控える - 利益を花形(アルミ)に回す
【負け犬】銅加工:撤退検討 - 市場は縮小、シェアも低い - 投資しても回収困難 - 戦略:システム刷新は見送り、事業売却を検討
投資方針: - システム刷新:実施しない(投資ゼロ) - 現行システムで延命(最低限の保守のみ) - 3年以内に事業売却または撤退
Phase 5:投資配分の決定
PPMに基づく投資配分:
| 事業 | PPM区分 | 投資額 | 投資比率 |
|---|---|---|---|
| アルミ加工 | 花形 | 8,000万円 | 64% |
| ステンレス加工 | 金のなる木 | 4,500万円 | 36% |
| 銅加工 | 負け犬 | 0円 | 0% |
| 合計 | - | 1.25億円 | 100% |
当初見積もりの1.8億円から、0.55億円削減。
Phase 6:経営会議での説明(1週間)
PPMの結果を経営陣に提示した。
銅加工事業部長の反応: 「創業事業を切り捨てるのですか……!」
田村は冷静に答えた。
「切り捨てるのではありません。市場が縮小し、競合にシェアでも劣っています。ここに投資しても、回収できません。一方、アルミは成長市場で、我々が優位です。限られた資金を、勝てる戦場に集中すべきです」
財務部長: 「PPMは理論上正しい。しかし、銅加工には長年の顧客がいます。すぐに切るわけにはいきません」
田村は提案した。
「3年間の猶予期間を設けましょう。その間、銅加工は現行システムで延命します。同時に、事業譲渡先を探します。従業員の雇用も、譲渡先が引き継ぐ条件で交渉します」
経営会議の結論: - アルミ加工:最優先でシステム刷新(8,000万円) - ステンレス加工:必要最小限の刷新(4,500万円) - 銅加工:現状維持、3年以内に事業譲渡
Phase 7:18ヶ月後の成果
【花形】アルミ加工事業: - システム刷新完了(投資8,000万円) - 業務効率:40%向上 - 売上:14億円 → 19億円(+36%) - シェア:1.40 → 1.85(さらに拡大) - 結果:花形として成長継続
【金のなる木】ステンレス加工事業: - 最小限のシステム刷新完了(投資4,500万円) - 業務効率:18%向上 - 売上:26億円 → 27億円(横ばい) - 営業利益率:12% → 16%(効率化でコスト削減) - 結果:安定的な収益源として機能
【負け犬】銅加工事業: - システム刷新なし(投資ゼロ) - 18ヶ月目:事業譲渡先が決定(D社:銅専門メーカー) - 従業員12名:全員がD社へ転籍(雇用維持) - 譲渡価格:2.8億円 - 結果:撤退ではなく、適切な事業承継
24ヶ月後の全社成果:
財務指標: - 年間売上:52億円 → 58億円(+12%) - アルミ成長が牽引 - 営業利益率:7% → 13% - ステンレスの効率化、銅譲渡益 - システム投資:1.25億円(当初予定より0.55億円削減) - 投資回収期間:14ヶ月
組織の変化: - アルミ事業部:人員+8名、拠点+1箇所 - ステンレス事業部:現状維持 - 銅事業部:D社へ譲渡、従業員の雇用維持
戦略の成功: - 限られた資金を、勝てる事業に集中 - 負け犬を切り捨てず、適切に承継 - 花形の成長で、全社が成長軌道に
その夜、PPMの本質について考察した。
人は感情で判断する。「創業事業だから」「思い入れがあるから」と、負け犬に投資し続ける。
しかし、PPMは冷徹だ。市場成長率とシェアという2つの軸で、事業を4象限に配置する。そして、花形に投資し、金のなる木から資金を得て、負け犬は切る。
Metalixの銅加工事業は、負け犬だった。しかし、田村は切り捨てなかった。事業譲渡という形で、従業員の雇用を守り、適切な承継先を見つけた。
PPMは冷徹だが、非情ではない。正しい配分が、組織全体を救う。
「感情で投資するな。PPMで配置し、戦略的に資源を配分せよ。花形を育て、金のなる木を守り、負け犬は承継する」
次なる事件もまた、PPMが限られた資源を最適配分する瞬間を描くことになるだろう。
「全てに投資する者は、何も得られない。PPMで配置し、勝てる戦場に資源を集中せよ」——探偵の手記より
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