📅 2025-11-12 23:00
🕒 読了時間: 21 分
🏷️ KPT
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KAYOUのAARRR事件が解決した翌週、今度は東京から営業支援企業のAI活用に関する相談が届いた。第二十六巻「再現性の追求」の第313話は、AIを導入しても成果が出ない企業が、振り返りの習慣で改善を日常化する物語である。
「探偵、我々はAIテレアポシステムを導入しました。3ヶ月前です。AIが見込み客リストを分析し、最適なタイミングで架電します。しかし、商談化率が全く上がりません。営業8名のうち、成果を出しているのは2名だけ。残り6名は『AIが使えない』と言います」
AquaCall社 の営業部長、港区出身の山口隆は困惑を隠せずにベイカー街221Bを訪れた。彼の手には、AIシステムの導入計画書と、それとは対照的に「成果出ず」と記された営業会議の議事録が握られていた。
「我々は東京で中小企業向けの営業支援ツールを販売しています。主力商品はCRMとSFAの統合システム。営業チームは8名。月間約2,400件のテレアポを実施していますが、商談化率は低迷しています」
AquaCall社のAI導入停滞: - 設立:2018年(営業支援ツール販売) - 年間売上:4.8億円 - 営業チーム:8名 - 月間架電数:約2,400件(1人300件) - 商談化率:AI導入前8% → 導入後8%(変化なし) - AI投資:システム導入費480万円+月額運用費12万円 - 問題:AIを活用できる営業とできない営業で二極化
山口の声には深い焦りがあった。
「問題は、AIの使い方が分からないことです。AIは『この顧客は今週中に架電すべき』と提案します。でも、なぜそう判断したのか分かりません。営業は『AIの言う通りにやったけど断られた』と言います。成果が出ないので、『AIは使えない』という空気が広がっています」
典型的な営業の1日:
営業Aさん(28歳、入社3年目):
午前9:00: AIシステムにログイン。今日の推奨架電リストが表示される。
【AIの推奨リスト】
1. B社(優先度:高)
理由:Webサイト3回訪問、資料DL履歴あり
2. C社(優先度:中)
理由:メール開封、リンククリック
3. D社(優先度:低)
理由:名刺交換後2ヶ月経過
... (計30件)
午前9:15: B社に架電。
「お世話になります、AquaCallの営業Aです。先日、弊社のWebサイトをご覧いただいたようで……」
B社担当者: 「ああ、見ましたけど、今は必要ないです」
通話時間:45秒、結果:断られた
Aさんは首を傾げた。
「AIは『優先度:高』と言っていたのに……なぜ断られたんだろう?」
午前9:30〜11:30: 残り29件に架電。うち商談化:1件(3.3%)
昼休憩後、午後: また別の推奨リストが表示される。同じように架電。同じように断られる。
夕方: 今日の成果:架電60件、商談化2件(3.3%)
「AIは『これが良い』と言うけど、なぜ良いのか分からない。断られた時、何が悪かったのかも分からない。どう改善すればいいんだ……」
一方、成果を出している営業Bさん(32歳、入社5年目):
同じAIシステムを使っているが、商談化率は18%。
Bさんの1日:
午前9:00: AIの推奨リストを見るが、そのまま架電しない。
「まず、AIがなぜこの顧客を推奨したのか考える。Webサイト訪問履歴があるなら、どのページを見たか確認する。資料ダウンロードがあるなら、どの資料か確認する」
午前9:15: B社に架電する前に、準備。
架電: 「お世話になります、AquaCallの営業Bです。先日、弊社の『営業管理の自動化』資料をダウンロードいただきましたが、現在、営業管理で何かお困りごとはございませんか?」
B社担当者: 「ああ、実は営業の案件管理が属人化していて……」
商談化成功
夕方: 今日の成果:架電60件、商談化11件(18%)
Bさんは毎日、自分の架電内容をメモしている。
「成功パターン:資料DL後の顧客には、その資料のテーマで質問すると話が広がる」
「山口さん、営業BさんとAさんの商談化率の差は、何が原因だと思いますか?」
私の問いに、山口は答えた。
「Bは経験豊富です。顧客の反応を読み取る力があります。一方、Aはまだ若い。経験が足りません。ただ、Bに『どうやってるの?』と聞いても、『経験だよ』としか言われません。その経験を、どうやってAに教えればいいのか……」
現在のアプローチ(属人化型): - 成果:個人の経験と勘に依存 - 共有:「こうやってる」という口頭説明のみ - 問題:成功パターンが言語化・共有されない
私は改善の習慣化の重要性を説いた。
「経験を閉じ込めてはいけません。KPT——Keep、Problem、Try。何を続け、何が問題で、何を試すか。この3つを繰り返せば、成功パターンは組織の資産になります」
「経験を一人に閉じ込めるな。KPTで成功を言語化し、全員の武器に変えろ」
「改善は会議室ではなく、日常の中に宿る。KPTが、振り返りを習慣に変える」
「KPTは改善の鏡。Keep(継続)・Problem(問題)・Try(挑戦)の3段階で、成果を再現せよ」
3人のメンバーが分析を開始した。Geminiがホワイトボードに「KPTフレームワーク」を展開した。
KPTの3ステップ: 1. Keep(継続):うまくいったことを続ける 2. Problem(問題):うまくいかなかったことを特定 3. Try(挑戦):次に試すことを決める
「山口さん、AquaCallの営業チームに、KPTの習慣を導入しましょう」
Phase 1:KPTの導入(1週間)
まず、営業チーム全員にKPTの仕組みを説明した。
ルール: - 毎日、業務終了前に15分、KPTシートに記入 - 翌朝、チーム全員で5分間共有 - 週1回、30分のKPT振り返り会議
KPTシート(テンプレート):
【日付】2025年11月12日
【担当者】営業A
【Keep(うまくいったこと)】
-
【Problem(うまくいかなかったこと)】
-
【Try(次に試すこと)】
-
最初、営業チームは戸惑った。
「何を書けばいいんですか?」
「うまくいったこと、うまくいかなかったこと、次に試すこと。それだけです。例えば……」
Phase 2:1週目のKPT実践
営業Aの1日目のKPT:
【Keep】
- AIの推奨リスト上位5件に集中した
- 午前中に架電を終わらせた
【Problem】
- AIが推奨する理由が分からず、準備なしで架電した
- 60件中、商談化2件(3.3%)
【Try】
- 明日は、AIの推奨理由を確認してから架電する
営業Bの1日目のKPT:
【Keep】
- 資料DL顧客には、その資料のテーマで質問した(成功率高い)
- Webサイト訪問履歴から顧客の関心を推測した
【Problem】
- メール開封だけの顧客は、話が広がらない(断られる)
【Try】
- メール開封顧客には、まず「どの部分に興味を持ったか」を聞く
翌朝の5分間共有:
営業Aは、Bのシートを見て驚いた。
「Bさん、『資料DL顧客にはテーマで質問』って、そういうことだったんですか! 僕は何も考えずに架電してました……」
営業B: 「そうだよ。AIが推奨する理由を見れば、顧客の関心が分かる。それに合わせて話せば、商談化しやすい」
営業A: 「今日から試してみます」
Phase 3:2週目のKPT実践と改善
営業Aの7日目のKPT:
【Keep】
- AIの推奨理由を確認してから架電(商談化率 3.3% → 8%)
- 資料DL顧客には、そのテーマで質問
【Problem】
- Webサイト訪問だけの顧客は、まだ断られることが多い
【Try】
- Webサイトの「どのページ」を見たかを確認する(Bさんの方法)
営業Bの7日目のKPT:
【Keep】
- メール開封顧客に「興味を持った部分」を聞く(成功率向上)
【Problem】
- 電話に出ない顧客が多い(架電タイミングの問題?)
【Try】
- AIが推奨する時間帯ではなく、業種ごとの最適時間を試す
(製造業:午前10時、IT業:午後3時)
営業チーム全員が、毎日KPTを記入し、翌朝共有する。
すると、成功パターンが徐々に言語化され、全員で共有されるようになった。
Phase 4:1ヶ月後のKPT分析
1ヶ月分のKPTシートを集計し、成功パターンを抽出した。
チーム全体のKeep(成功パターン)トップ5:
これらを「営業ナレッジ集」として文書化し、全員に配布
チーム全体のProblem(共通課題)トップ3:
これらに対するTry(試す施策)を全員で議論
Phase 5:AIとKPTの連携(2ヶ月目)
KPTで蓄積された成功パターンを、AIシステムにフィードバックした。
AI開発ベンダーに依頼: - 成功パターン5つをAIの推奨ロジックに追加 - AIが推奨理由を提示する際、「資料DL顧客」「Webサイト訪問ページ」などを明示
2ヶ月目の新しいAI推奨画面:
【AIの推奨リスト】
1. B社(優先度:高)
理由:資料DL(営業管理の自動化)
→ 推奨トーク:「営業管理でお困りごとは?」
2. C社(優先度:中)
理由:Webサイト訪問(料金ページ閲覧)
→ 推奨トーク:「導入コストについてご相談ありますか?」
営業Aの反応: 「AIが『なぜ』と『どう話すべきか』を教えてくれる! これなら僕でもできる!」
6ヶ月後の成果:
商談化率の劇的向上: - 営業チーム全体:8% → 16%(+100%) - 営業A(元3.3%):3.3% → 14% - 営業B(元18%):18% → 22% - その他6名も平均15%に収束
財務効果: - 月間商談化数:192件 → 384件(+100%) - 成約率(商談→受注):25%(変わらず) - 月間受注:48件 → 96件 - 平均受注単価:120万円 - 月間売上:5,760万円 → 1億1,520万円(+100%) - AI投資回収期間:2.1ヶ月
組織の変化:
KPTの習慣化: - 毎日15分のKPT記入が定着(欠席率:2%) - 毎朝5分の共有会が文化に - 週次振り返り会議で、月間の成功パターンを更新
ナレッジの蓄積: - 6ヶ月で累計720件のKPTシート - 成功パターン:38個を文書化 - 新人営業の立ち上がり期間:6ヶ月 → 2ヶ月
山口の感想:
「AI導入当初、『AIが全て解決する』と思っていました。でも、AIはツールでしかない。使う人間が成長しなければ、成果は出ません。
KPTを導入したことで、営業チームは『なぜ成功したのか』『なぜ失敗したのか』を言語化するようになりました。そして、成功パターンを全員で共有できるようになりました。
今では、新人でも2ヶ月で戦力になります。ベテランの経験が、組織の資産になったのです」
その夜、KPTの本質について考察した。
AquaCall社は、AIを導入しても成果が出なかった。AIは推奨リストを提示するが、「なぜ」そう推奨するのか、「どう」話すべきかは教えてくれなかった。
KPTで毎日の振り返りを習慣化したことで、成功パターンが言語化された。そして、それが全員で共有され、組織の資産になった。
「改善は一度の会議では生まれない。日常の中で、小さく振り返り、小さく試す。その積み重ねが、組織を変える」
次なる事件もまた、KPTが改善を日常化する瞬間を描くことになるだろう。
「経験を閉じ込めるな。KPTで毎日振り返れ。Keep・Problem・Try。この3ステップが、属人化を組織知に変える」——探偵の手記より
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