📅 2025-11-12 11:00
🕒 読了時間: 19 分
🏷️ AARRR
![]()
NeoFabのOODA事件が解決した翌週、今度は神奈川から小売EC企業の顧客継続に関する相談が届いた。第二十六巻「再現性の追求」の第312話は、新規獲得の罠から脱却し、顧客の生涯価値を最大化する物語である。
「探偵、我々は毎月200万円を広告に投じています。新規顧客は獲得できます。しかし、2回目の購入率が18%しかありません。定期購入の解約率も月10%です。穴の開いたバケツに水を注いでいるようです」
KAYOU Digital Commerce社 のマーケティング部長、横浜出身の佐藤恵は困惑を隠せずにベイカー街221Bを訪れた。彼女の手には、広告の成果レポートと、それとは対照的に「解約理由不明」と記された顧客分析資料が握られていた。
「我々は神奈川で健康食品と化粧品のECを運営しています。店舗も5店舗ありますが、売上の70%はECです。SNS広告で新規顧客を獲得し、定期購入に誘導する……そういうモデルです。しかし、継続しません」
KAYOU社のEC運営停滞: - 設立:2015年(健康食品・化粧品EC) - 年間売上:12億円(うちEC 8.4億円) - 月間新規顧客:平均850人 - 月間広告費:200万円 - 初回購入→2回目購入率:18% - 定期購入解約率:月10% - 顧客紹介率:3%(ほぼゼロ) - 問題:新規獲得に依存し、継続・紹介が機能していない
佐藤の声には深い焦りがあった。
「問題は、顧客が『買って終わり』になることです。初回購入後、フォローメールを送ります。でも、開封率は8%。定期購入を提案しても、反応がありません。そして、解約されます。理由を聞いても『特にありません』としか言われません」
典型的な顧客の行動パターン:
ある顧客Aさん(38歳女性):
1日目(SNS広告経由で初回購入): - Instagram広告:「30代から始める美肌ケア」 - クリック → LP(ランディングページ) - 初回限定50%OFF:3,980円 → 1,990円 - 購入完了
3日後(商品到着): - 商品を開封 - 使用開始
7日後(フォローメール): - KAYOU社から「商品は気に入っていただけましたか?」メール - Aさん:メールを開封せず削除
14日後(定期購入案内メール): - 「定期購入なら毎回10%OFF」 - Aさん:メール開封せず削除
30日後(リマインドメール): - 「そろそろ商品がなくなる頃では?」 - Aさん:「もう他のブランドに変えた」
結果:2回目購入なし、LTV(生涯顧客価値):1,990円
「広告で850人を獲得しても、継続するのは153人(18%)だけ。残り697人は一度きりです。これでは、いくら広告費をかけても利益が出ません」
「佐藤さん、現在のマーケティング施策は、どのような指標で評価されていますか?」
私の問いに、佐藤は答えた。
「基本的には『新規獲得数』です。月850人を目標にしています。あとは『売上』。でも、継続率や紹介率は測定していますが、重視していませんでした。『とにかく新規を増やせ』という方針でした」
現在のアプローチ(獲得至上型): - KPI:新規獲得数 - 施策:広告投資の拡大 - 問題:継続率・紹介率が低く、LTVが伸びない
私は顧客の生涯価値を最大化する重要性を説いた。
「新規獲得は入口です。しかし、成長はその先にあります。AARRR——Acquisition、Activation、Retention、Referral、Revenue。この5段階で顧客の旅を設計すれば、穴の開いたバケツは満杯の貯水池に変わります」
「獲得に溺れるな。AARRRで顧客の滞在時間を設計せよ」
「リピートは仕組みではない。信頼の積層だ。一度の売上より、十年の関係を選べ」
「AARRRは成長の地図。獲得・活性化・継続・紹介・収益化の5段階で、顧客価値を最大化せよ」
3人のメンバーが分析を開始した。Geminiがホワイトボードに「AARRRフレームワーク」を展開した。
AARRRの5段階: 1. Acquisition(獲得):顧客を集める 2. Activation(活性化):初回体験を最適化 3. Retention(継続):繰り返し購入してもらう 4. Referral(紹介):顧客が新規顧客を連れてくる 5. Revenue(収益化):LTVを最大化する
「佐藤さん、KAYOUのEC運営を、AARRRで再設計しましょう」
Phase 1:現状分析 - 各段階の数値を可視化(2週間)
まず、KAYOU社の顧客がどの段階で離脱しているかを分析した。
月間850人の新規顧客の追跡(過去6ヶ月平均):
【Acquisition(獲得)】
- SNS広告経由:850人/月
- CPA(顧客獲得単価):2,353円(200万円 ÷ 850人)
↓
【Activation(活性化)】
- 初回購入完了:850人(100%)
- 商品開封率:推定95%(807人)
- 商品使用率:推定80%(680人)
※開封・使用は推定値(計測していなかった)
↓
【Retention(継続)】
- 2回目購入:153人(18%)
- 3回目購入:76人(9%)
- 定期購入移行:42人(5%)
↓
【Referral(紹介)】
- 友人紹介制度利用:25人/月(3%)
- SNS投稿:推定12件/月
↓
【Revenue(収益化)】
- 平均LTV:3,680円
- 定期購入者の平均LTV:28,400円
発見: - Activationで15%が離脱(商品を使わない) - Retentionで82%が離脱(2回目を買わない) - Referralがほぼ機能していない(3%)
佐藤は愕然とした。
「つまり、我々は『買わせる』ことだけに集中して、『使ってもらう』『継続してもらう』『紹介してもらう』ことを放置していたのですね……」
Phase 2:Activation(活性化) - 初回体験の最適化(1ヶ月)
まず、商品を購入した顧客が「確実に使う」仕組みを作った。
施策1:使い方ガイドの同梱 - 商品到着時に「7日間チャレンジ」ガイドを同梱 - 1日目:洗顔後に使用 - 2日目:朝晩2回使用 - ... 7日目:変化を実感 - QRコードで使い方動画にアクセス可能
施策2:3日後の自動フォローメール - 件名:「[名前]さん、使い始めて3日目ですね」 - 内容:「7日間チャレンジ、順調ですか? 多くの方が3日目で肌の変化を実感されています」 - 開封率:8% → 38%(パーソナライズ効果)
施策3:7日後のフィードバック依頼 - 簡単なアンケート(3問、1分で回答可能) - 「変化を感じましたか?」「満足度は?」「続けたいですか?」 - 回答者に次回使える500円クーポン進呈 - 回答率:42%
1ヶ月後の成果: - 商品使用率:80% → 92% - 7日間継続率:推定70% → 85%
Phase 3:Retention(継続) - リピート購入の仕組み化(2ヶ月)
次に、2回目、3回目の購入を促す仕組みを作った。
施策1:タイミング最適化 - 商品の使用ペースを分析:平均25日で使い切る - 20日目に「そろそろなくなる頃では?」メール - 25日目に「在庫切れ前に」リマインド
施策2:定期購入の心理的ハードル削減 - 「いつでも解約OK」を明記 - 初回定期購入は15%OFF(通常10%OFFより優遇) - 2回目以降の配送日を自由に変更可能
施策3:LINE公式アカウントでの継続サポート - LINE登録者に「美肌ケアTips」を週1回配信 - 商品の使い方、美容知識、お客様の声など - 登録率:35% - LINE経由の2回目購入率:48%(メールの18%の2.7倍)
2ヶ月後の成果: - 2回目購入率:18% → 42%(+133%) - 3回目購入率:9% → 28%(+211%) - 定期購入移行率:5% → 18%(+260%)
Phase 4:Referral(紹介) - 顧客が顧客を連れてくる(2ヶ月)
次に、満足した顧客が自然に紹介したくなる仕組みを作った。
施策1:紹介キャンペーンの再設計 - Before:「友人紹介で500円クーポン」(誰も使わない) - After:「あなたも友人も、次回購入が50%OFF」(双方に大きなメリット)
施策2:レビュー投稿の促進 - 商品到着30日後に「変化を教えてください」メール - レビュー投稿者に1,000円分のポイント進呈 - 写真付きレビューはさらに+500円 - レビュー投稿率:5% → 28%
施策3:InstagramでのUGC(ユーザー生成コンテンツ)活用 - ハッシュタグキャンペーン「#KAYOU美肌チャレンジ」 - 投稿者の中から毎月10名に商品1年分プレゼント - UGC投稿数:月12件 → 月180件
2ヶ月後の成果: - 友人紹介利用:3% → 22%(+633%) - 紹介経由の新規顧客:月25人 → 月187人(+648%) - 紹介顧客のCPA:2,353円 → 実質ゼロ(広告費不要)
Phase 5:Revenue(収益化) - LTV最大化(継続施策)
最後に、上位顧客層へのパーソナライズ提案を実施した。
施策1:RFM分析による顧客分類 - VIP顧客(LTV 5万円以上):8% - 優良顧客(LTV 2〜5万円):15% - 一般顧客:77%
施策2:VIP顧客への特別対応 - 新商品の先行案内 - 限定商品の提供 - 誕生日プレゼント(商品サンプル) - パーソナル美容相談(月1回、オンライン)
施策3:アップセル・クロスセル - 化粧品購入者に健康食品を提案(逆も) - セット購入で20%OFF
3ヶ月後の成果: - VIP顧客の年間購入額:平均5.2万円 → 8.6万円(+65%) - クロスセル率:12% → 34%
12ヶ月後の総合成果:
顧客指標の劇的改善:
【Acquisition(獲得)】
- 月間新規顧客:850人 → 1,037人(+22%)
※紹介増加により、広告費据え置きで獲得数増
【Activation(活性化)】
- 商品使用率:80% → 92%
【Retention(継続)】
- 2回目購入率:18% → 42%
- 定期購入移行率:5% → 18%
【Referral(紹介)】
- 紹介利用率:3% → 22%
- 紹介経由新規:月25人 → 月187人
【Revenue(収益化)】
- 平均LTV:3,680円 → 12,400円(+237%)
- 定期購入者LTV:28,400円 → 42,800円(+51%)
財務成果: - 月間売上:1億円 → 1億5,600万円(+56%) - 広告費:月200万円(据え置き) - CPA:2,353円 → 実質1,520円(紹介流入が増えたため) - 粗利率:38% → 52%(LTV増加により)
組織の変化: - マーケティング部:「獲得担当」→「顧客体験設計チーム」に改組 - KPI:新規獲得数 → AARRR各段階の転換率 - 週次でAARRRダッシュボードをレビュー
佐藤の感想:
「以前は『とにかく新規を獲得しろ』という方針でした。広告費を増やせば、売上は上がる。でも、利益は増えませんでした。
AARRRで顧客の旅を設計したことで、『買ってもらう』から『使ってもらう』『続けてもらう』『紹介してもらう』に視点が変わりました。
特に驚いたのは、Referralの効果です。紹介経由の顧客は、広告経由の顧客よりLTVが1.8倍高いのです。満足した顧客が連れてきた顧客は、最初から信頼してくれています。
今では、新規獲得の50%以上が紹介経由です。広告費を増やさなくても、成長が続いています」
その夜、AARRRの本質について考察した。
KAYOU社は、新規獲得という麻薬に溺れていた。月200万円の広告費を投じ、850人を獲得する。しかし、82%は一度きりで去っていった。
AARRRで顧客の旅を5段階に分解したことで、真実が見えた。問題は獲得ではなく、活性化と継続だった。商品を使ってもらい、満足してもらい、継続してもらう。そして、紹介してもらう。
「成長は一度の売上ではなく、顧客の滞在時間から始まる。AARRRが、一回の取引を十年の関係に変える」
次なる事件もまた、AARRRが成長のループを生む瞬間を描くことになるだろう。
「獲得に溺れるな。活性化・継続・紹介・収益化。この4段階が、穴の開いたバケツを満杯の貯水池に変える」——探偵の手記より
あなたのビジネス課題、Kindle Unlimitedで解決!
月額980円で200万冊以上の本が読み放題。
ROI探偵事務所の最新作も今すぐ読めます!
※対象となる方のみ無料で体験できます