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要約カード

JA 2026-04-10 23:00
DESIGN_THINKINGDX化業務効率化

InnovaLogistics社の明細書作成自動化依頼。DESIGN THINKINGが照らし出した、過去のコンサルが頓挫した理由と、現場から始める設計が生む唯一の解。

ROI事件ファイル No.470『七つのExcelが眠る倉庫』

JA 2026-04-10 23:00

ICATCH

七つのExcelが眠る倉庫


第一章:前のコンサルが逃げた理由

「二年前に物流コンサルを入れました。三ヶ月で頓挫しました。理由は、業務が複雑すぎて手がつけられないと言われたからです」

InnovaLogistics社の管理本部長、橋本義弘氏は、そう言いながら分厚いファイルをテーブルに置いた。当時のコンサルが残していった資料だった。業務フロー図が何枚も入っているが、どれも途中で止まっている。矢印が宙に浮いたまま、次の工程に繋がっていない。

「どんな業務ですか」と私は尋ねた。

「配車の明細書作成です」と橋本氏が答えた。「物流の配車係が、一日の配送記録をExcelに入力します。担当者が四名いて、それぞれが自分のExcelファイルを持っています。月末に事務担当が四名分のファイルを一つに集約して、請求書と支払明細書を作る。その集約作業が——」

「うまくいっていない」とClaudeが続けた。

「複数人が同時に開くとバグが出ます」と橋本氏が言った。「数字がずれる、計算式が壊れる、誰かが上書きする——毎月末に同じことが起きます。確認作業だけで月二十時間以上消えています。顧客への請求が一日遅れたこともありました」

「DX化と属人化の解消を掲げているとのことでしたが」とGeminiが確認した。

「掲げているだけです」と橋本氏が苦笑した。「現実には、各部署が独自のExcelで動いていて、システムが乱立しています。統一しようとすると、うちの業務は特殊だから既製品では無理だという声が出てくる。その声が出るたびに、話が止まります」

「過去のコンサルが頓挫した本当の理由は、業務が複雑だったからではないと思います」と私は言った。

橋本氏が目を細めた。「どういうことですか」

「複雑な業務を、外から設計しようとしたからです」とClaudeが静かに答えた。「現場の中から始める方法があります」

第二章:DESIGN THINKINGが問う五つの段階

「この案件には、DESIGN THINKINGが必要です」

Claudeがホワイトボードに五つの言葉を書いた。共感・定義・発想・試作・検証。

「DESIGN THINKINGとは、ユーザーへの共感から始まり、問題を定義し、解決策を発想し、試作し、検証するという五段階のプロセスです」と私が説明した。「過去のコンサルが失敗した理由は、共感と定義を飛ばして、いきなり解決策を外から持ち込んだからだと推測します。DESIGN THINKINGは、現場の人間が感じている摩擦から設計を始めます。現場から生まれた解決策は、現場に根付きます」

「まず現状のコストを測りましょう」とGeminiがROI Polygraphを開いた。橋本氏から提供されていた業務ログと、月末の作業記録を入力する。

数字が返ってきた。

「月間の工数内訳が出ました」とGeminiが読み上げた。「配車係四名のExcel入力が月八十時間、時給二千六百円で二十万八千円。事務担当三名の集約・明細作成が月六十時間、時給二千八百円で十六万八千円。バグ対応・確認作業が月二十時間、平均時給二千七百円で五万四千円。合計月四十三万円が、この明細書作成プロセスだけで消えています。年間換算で五百十六万円です」

橋本氏が数字を見て息をついた。「月末の残業代を加えると、さらに増えます」

「過去のコンサルへの費用と、この二年間の非効率コストを合計すると」とClaudeが静かに言った。「頓挫のコストは、想像より大きかったかもしれません」

「では、DESIGN THINKINGで始めます」と私が続けた。


[第一段階——共感:現場が感じている摩擦を聞く]

「最初の一週間で、配車係四名と事務担当三名、全員に個別で話を聞いてください」とClaudeが言った。「聞く内容は一つだけです。月末の作業で、最もストレスを感じる瞬間はいつですか」

「それだけでいいですか」と橋本氏が確認した。

「それだけでいいです」と私が答えた。「解決策を聞くのではありません。感じている摩擦を聞くのです。解決策は現場の外から来ますが、摩擦は現場の中にしかありません。前のコンサルは、摩擦を聞く前に解決策を持ち込んだ。だから、現場がついてこなかった」

一週間後、橋本氏がヒアリング結果を持ってきた。七名の回答を並べると、三つのパターンに収束した。

配車係からは「入力したはずのデータが、翌日確認すると変わっている」という声。事務担当からは「誰のファイルが最新版か分からない」という声。全員共通で「月末だけ急に仕事が増える」という声。

「三つとも、同じ原因から来ています」とGeminiが整理した。「データが分散していて、誰も全体を把握できていない、という構造的な問題です」


[第二段階——定義:本当の問いを言葉にする]

「共感で集めた摩擦を、一つの問いに定義します」とClaudeが言った。「今回の問いはこうです——配車係と事務担当が、リアルタイムで同じデータを見られる環境を、どう作るか」

「明細書の自動化ではないんですか」と橋本氏が言った。

「自動化は解決策です」と私が応じた。「問いと解決策を混同すると、解決策が先に決まって、問いがそれに合わせて変形します。その状態で作ったシステムは、現場の問いに答えていない。まず問いを正確に定義することで、解決策の選択肢が広がります」

「リアルタイムで同じデータを見られる環境——それが定義です」とClaudeが繰り返した。「この定義から見ると、Excelの集約作業をどう効率化するかではなく、そもそも分散したExcelをなくすことが問いへの答えになります」


[第三段階——発想:解決策を広げる]

「定義した問いに対して、制約を外して解決策を発想します」とGeminiが続けた。「予算や技術の制約を一旦置いて、理想の状態を描く。その理想に近づくための現実的な手段を、後から選びます」

「理想の状態は」とClaudeが続けた。「配車係が一日の記録を入力すると、リアルタイムで集約データに反映される。月末に事務担当が確認する時には、すでに数字が揃っている。確認作業は、正確かどうかの検証だけになる」

「この理想に近づく手段として」と私が続けた。「三つの選択肢があります。第一に、クラウド型の配車管理システムへの移行。第二に、既存のExcelをGoogleスプレッドシートに置き換えてリアルタイム共有。第三に、入力フォームだけを統一して、集約は自動化スクリプトで行う。三つを、コストと現場への負担で比較します」

Strategic ROI Intelligenceで同規模の物流企業の導入事例と比較しましょう」とGeminiが提案した。「類似の課題を解決した企業がどの手段を選んだかの参考指標が取れます」

ツールが結果を返した。年商五億円以下の物流企業で同様の課題を持っていたケースでは、第三の選択肢——入力フォームの統一+自動集約スクリプト——が最も多く採用されていた。初期投資が最も小さく、現場の操作変更が最も少ないためだった。


[第四段階——試作:最小限のプロトタイプで試す]

「発想で選んだ手段を、すぐに全社展開しないことが重要です」とClaudeが言った。「まず、配車係一名と事務担当一名のペアで、一週間だけ試します。統一入力フォームを作り、自動集約スクリプトを走らせる。その一週間で何が起きるかを観察する。この小さな実験が、DESIGN THINKINGの核心です」

「前のコンサルとの違いがそこです」と私が続けた。「前のコンサルは、完成したシステムを全社に展開しようとした。DESIGN THINKINGは、壊れてもいい小さな試作から始めます。壊れた場所が、本当の課題を教えてくれます」

「試作の結果、何が壊れましたか」と橋本氏が少し笑いながら言った。「まだやっていませんが、何かが壊れる気がします」

「壊れていいんです」とGeminiが答えた。「壊れた場所を直したものが、現場に合ったシステムです。壊れる前に完成させようとするから、頓挫します」


[第五段階——検証:数字で判断する]

「試作の一週間後、三つの数字を確認してください」と私が締めた。「入力にかかった時間が変わったか、集約作業の時間が変わったか、確認作業でエラーが出たか。この三つが改善されていれば、残り六名への展開を判断します。改善されていなければ、試作に戻ります」

ROI Proposal Generatorで導入後の試算を出しましょう」とGeminiが提案した。

自動化後の削減効果が並んだ。

  • 初期費用:入力フォーム統一・自動集約スクリプト開発費用八十万円
  • 月次費用:保守・クラウド費用月三万円
  • 月次削減効果:配車入力70%削減=145,600円、集約作業80%削減=134,400円、バグ対応90%削減=48,600円、合計月328,600円
  • 月次純削減:328,600円-30,000円=月298,600円
  • 投資回収期間:80万円÷298,600円=約2.7ヶ月

「三ヶ月以内での回収です」とGeminiが整理した。「年間削減効果は約三百五十八万円。二年間の非効率コストを考えれば、今すぐ動き始めることが最も合理的な選択です」

橋本氏が数字を見ながら言った。「前のコンサルが頓挫してから二年、動けなかった。その二年間のコストが、今日初めて見えました」

第三章:現場から生まれた設計

「DESIGN THINKINGで設計した進め方を整理します」と私がホワイトボードの前に立った。

「第一週——個別ヒアリング。七名全員から摩擦を聞く。解決策は聞かない。第二週——問いの定義と発想。ヒアリング結果を三つのパターンに整理し、問いを一文で定義する。第三週——プロトタイプの試作。配車係一名と事務担当一名のペアで一週間試す。第四週——検証と展開判断。三つの数字で判断し、問題なければ残り五名への展開を決める。展開完了後——月次でPDCAを回し、スクリプトの精度を上げ続ける」

「全部で一ヶ月です」と橋本氏が確認した。

「プロトタイプの試作までが一ヶ月です」とClaudeが応じた。「前のコンサルは三ヶ月かけて頓挫しました。DESIGN THINKINGは一ヶ月で試作まで到達します。到達した時点で、現場が動くかどうかが分かります。動かなければ、また設計します。動けば、広げます」

「なぜ前のコンサルより早いのですか」と橋本氏が尋ねた。

「完成を目指していないからです」と私が答えた。「完成を目指すと、全員の合意が必要になります。試作を目指すと、一名の合意で始められます。一名で始めて、うまくいったら隣の人に広げる。その速度が、現場への根付きを決めます」

橋本氏が静かに頷いた。「来週から、ヒアリングを始めます。七名、全員と話します」

「最初の一名を選ぶ時は」とClaudeが付け加えた。「最も不満を持っている人を選んでください。最もうまくいかないと感じている人が、最も鋭い摩擦を教えてくれます。その摩擦を解いた試作が、全員に刺さります」

第四章:Excelが静かになった月末

六ヶ月後、橋本氏から報告が届いた。

第一週のヒアリングで、最も不満を持っていた配車係の一名が、試作への参加を自ら志願した。「自分が最初にやりたい」と言ったと、橋本氏は報告書に記していた。

統一入力フォームと自動集約スクリプトの試作は、三日目にエラーが出た。配車係が特定の品目コードを入力した際に、集約スクリプトが誤った行に数字を入れる問題だった。そのエラーが、実は旧Excelでも毎月発生していた見えないバグと同じ構造だったことが、試作を通じて初めて判明した。

修正した試作を七名全員に展開したのは三週目。月末の集約作業は、従来の六十時間から十一時間に削減された。確認作業でのエラー件数はゼロ。配車係の一名が「月末が怖くなくなった」と言ったと、橋本氏は報告書に記していた。

年間削減効果は試算の三百五十八万円を上回り、月末残業の削減を含めると約四百万円に達した。

橋本氏の報告書には最後にこう記されていた。「前のコンサルが業務の複雑さに頓挫した理由が、今なら分かります。外から設計しようとしたからです。DESIGN THINKINGは、中から設計を始めました。現場の摩擦から始めた設計は、現場が自分たちのものだと感じます。七名全員が、自分たちで作ったシステムだと思っています。だから、使われています」

七つのExcelが静かに眠った月末が、初めて来た。

「複雑な業務を、外から設計することはできない。複雑さは、内側からしか解けない。DESIGN THINKINGが問う五段階——共感、定義、発想、試作、検証——は、現場の人間が感じている摩擦を起点にする。摩擦のない場所に、解決策はない。最も不満を持っている人が、最も正確な問いを持っている。その問いから始めた設計だけが、現場に根付く。七つのExcelが眠った夜、現場が自分たちの手で作ったシステムが、静かに動き始めた」


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