📅 2025-12-18 23:00
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🏷️ PEST
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CosmoTech社のMicrosoft 365事件が解決した翌日、今度はシステム運用保守のパートナー選定に関する相談が届いた。第二十九巻「再現性の追求」の第357話は、外部環境を俯瞰する物語である。
「探偵、我々は社内システムを外部開発会社にスクラッチで構築してもらいました。しかし、社内にシステム担当者がいません。専門知識を持つ人材もいません。軽微な修正や不具合対応を迅速にできず、業務効率化が進みません。そして、担当者が1名のため、属人化のリスクが高まっています」
GlobeSys社 の経営企画部長、大阪出身の山本健太は、切迫した表情でベイカー街221Bを訪れた。彼の手には、現行システムの構成図と、それとは対照的に「不具合対応:平均5営業日」と記された業務分析レポートが握られていた。
「我々は、流通業向けの物流管理システムを提供しています。従業員95名。年商28億円。営業部門向けのSFA、伝票システム、在庫管理システムを、外部開発会社に依頼してスクラッチ開発で構築しました」
GlobeSys社の現状: - 設立:2006年(物流管理システム) - 従業員数:95名 - 年商:28億円 - 社内システム:SFA、伝票システム、在庫管理(全てスクラッチ開発) - 開発会社:X社(2018年から契約) - 問題:社内に専門人材なし、対応遅延、属人化、AI活用の知見なし
山本の声には深い危機感があった。
「社内システムは、2018年から2020年にかけて、X社に開発してもらいました。総開発費2,800万円。SFA、伝票システム、在庫管理システムの3つです。当時は『これで業務効率化ができる』と期待していました。
しかし、問題があります。社内にシステム担当者がいません。専門知識を持つ人材がいません。だから、軽微な修正や不具合対応も、全てX社に依頼しています。しかし、対応に時間がかかります」
典型的な問題の事例:
ケース1:軽微な修正(画面の文言変更) - 依頼内容:SFAの画面で「案件名」を「商談名」に変更 - X社への依頼:2024年11月1日 - X社からの見積:2024年11月8日(7営業日後) - 見積金額:15万円(作業時間5時間 × 3万円) - 修正完了:2024年11月22日(依頼から21営業日後)
ケース2:不具合対応(データ出力エラー) - 発生:伝票システムでCSV出力時にエラー - X社への連絡:即座 - X社の調査開始:3営業日後 - 原因特定:5営業日後(「データ量が多すぎる」) - 修正完了:10営業日後 - 影響:10日間、伝票データを手作業で転記
ケース3:AI導入の相談 - 山本の要望:「蓄積データをAIで分析したい」 - X社の回答:「AI開発は専門外です」 - 結果:AI導入が進まない
山本は深くため息をついた。
「さらに問題があります。X社の担当者が1名だけです。その担当者が休暇や病気になると、対応が完全に止まります。2024年8月、担当者が2週間の夏季休暇を取りました。その間、軽微な修正依頼が3件溜まりました。休暇明けに対応が始まりましたが、全て完了したのは9月末でした。
我々は、新しいシステム運用保守パートナーを探しています。しかし、何を基準に選べばいいのか分かりません。技術力? 価格? 対応速度? それとも、AI活用の知見?」
「山本さん、技術力が高いパートナーを選べば良いと思っていますか?」
私の問いに、山本は即答した。
「はい、技術力は重要だと思います。でも、それだけで良いのか。他に考慮すべきことがあるのか。分かりません」
現在の理解(技術重視型): - 期待:技術力が高ければ解決 - 問題:外部環境(政治・経済・社会・技術)が考慮されていない
私は、外部環境の4要素を分析し、最適なパートナーを選定する重要性を説いた。
「問題は、『外部環境が見えていない』ことです。PEST分析——Political、Economic、Social、Technological。政治、経済、社会、技術。この4つの外部環境要因を分析します。パートナー選定は、環境適応の選択です」
「技術だけを見るな。環境を見よ。PESTで外部要因を分析せよ」
「パートナーは、いつも『環境に適応できるか』で選ぶべきだ。4つの環境を見よ」
「PESTは環境分析の技術。Political、Economic、Social、Technologicalで外部環境を俯瞰せよ」
3人のメンバーが分析を開始した。Geminiがホワイトボードに「PESTのフレームワーク」を展開した。
PESTの4要素: 1. Political(政治):法規制、政策、コンプライアンス 2. Economic(経済):コスト、市場動向、財務状況 3. Social(社会):企業文化、コミュニケーション、働き方 4. Technological(技術):技術トレンド、AI活用、イノベーション
「山本さん、候補パートナーをPESTで評価しましょう」
Phase 1:候補パートナーのリストアップ(1週間)
候補3社: - A社:大手SIer、従業員2,000名、上場企業 - B社:中堅IT企業、従業員150名、非上場 - C社:スタートアップ、従業員25名、AI特化
Phase 2:Political(政治)の評価(2週間)
評価基準: 1. データ保護法への対応(GDPR、個人情報保護法) 2. セキュリティ認証(ISO27001、Pマーク) 3. コンプライアンス体制 4. 契約の柔軟性
A社の評価: - データ保護法:完全対応(専任チームあり) - セキュリティ認証:ISO27001、Pマーク、SOC2 - コンプライアンス:法務部門があり、契約書のレビュー体制万全 - 契約:標準契約書あり、修正は最小限 - スコア:5点/5点(完璧)
B社の評価: - データ保護法:対応済み - セキュリティ認証:ISO27001、Pマーク - コンプライアンス:外部顧問弁護士と連携 - 契約:柔軟に対応可能 - スコア:4点/5点(十分)
C社の評価: - データ保護法:基本対応のみ - セキュリティ認証:Pマークのみ(ISO27001は未取得) - コンプライアンス:代表が直接対応 - 契約:柔軟だが、体制が不安 - スコア:2.5点/5点(やや不安)
GlobeSys社の要求水準: - 流通業向けシステムを扱うため、個人情報保護は重要 - ISO27001は必須 - 評価:A社=5点、B社=4点、C社=2.5点
Phase 3:Economic(経済)の評価(2週間)
評価基準: 1. 月額保守費用 2. 緊急対応の追加費用 3. 財務健全性 4. コストパフォーマンス
A社の評価: - 月額保守費用:80万円 - 緊急対応:別途見積(1時間5万円) - 財務健全性:上場企業、自己資本比率55% - コストパフォーマンス:高品質だが高価格 - スコア:3点/5点(高価格)
B社の評価: - 月額保守費用:45万円 - 緊急対応:月額に含まれる(月5時間まで無料) - 財務健全性:非上場、自己資本比率38% - コストパフォーマンス:バランス良好 - スコア:4.5点/5点(適正価格)
C社の評価: - 月額保守費用:30万円 - 緊急対応:別途見積(1時間3万円) - 財務健全性:スタートアップ、自己資本比率15% - コストパフォーマンス:安価だが財務リスクあり - スコア:3.5点/5点(安価だがリスク)
GlobeSys社の予算: - 現在のX社:月額35万円 - 予算上限:月額50万円 - 評価:B社が最適(45万円)
Phase 4:Social(社会)の評価(2週間)
評価基準: 1. 企業文化の適合性 2. コミュニケーションスタイル 3. 対応速度 4. 担当者の専任体制
A社の評価: - 企業文化:大企業的、手続きが多い - コミュニケーション:メール中心、定型的 - 対応速度:標準(SLA:5営業日) - 担当体制:チーム制(5名)、担当者が変わることあり - スコア:3点/5点(安定だが柔軟性に欠ける)
B社の評価: - 企業文化:中堅企業、柔軟性あり - コミュニケーション:電話・メール・チャット、柔軟 - 対応速度:迅速(SLA:2営業日) - 担当体制:専任2名、バックアップ体制あり - スコア:4.5点/5点(柔軟で迅速)
C社の評価: - 企業文化:スタートアップ、非常に柔軟 - コミュニケーション:チャット中心、カジュアル - 対応速度:非常に迅速(SLA:1営業日) - 担当体制:創業者が直接対応(属人化リスク) - スコア:3.5点/5点(迅速だが属人化)
GlobeSys社の要望: - 「軽微な修正を迅速に対応してほしい」 - 「専門用語でのコミュニケーションが難しいので、分かりやすく説明してほしい」 - 評価:B社が最適(柔軟で迅速、専任体制)
Phase 5:Technological(技術)の評価(2週間)
評価基準: 1. スクラッチシステムの保守能力 2. AI活用の知見 3. 最新技術への対応 4. イノベーション提案力
A社の評価: - スクラッチ保守:非常に高い(多様な言語・DB対応) - AI活用:専門部署あり、導入実績50件以上 - 最新技術:業界トレンドをキャッチアップ - イノベーション:年1回の提案会 - スコア:5点/5点(技術力最高)
B社の評価: - スクラッチ保守:高い(主要言語対応) - AI活用:実績10件、成長中 - 最新技術:積極的に導入 - イノベーション:四半期ごとの提案 - スコア:4点/5点(十分な技術力)
C社の評価: - スクラッチ保守:限定的(Python、Node.js中心) - AI活用:非常に高い(創業者がAI専門家) - 最新技術:最先端を追求 - イノベーション:常に新提案 - スコア:4.5点/5点(AI特化)
GlobeSys社の要望: - 「既存システム(PHP、MySQL)の保守ができること」 - 「AI活用の知見があること」 - 評価:A社またはB社が最適(PHPに対応、AI知見あり)
Phase 6:PEST総合評価(1週間)
PESTスコア集計(各5点満点、合計20点満点):
| 企業 | Political | Economic | Social | Technological | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| A社 | 5 | 3 | 3 | 5 | 16 |
| B社 | 4 | 4.5 | 4.5 | 4 | 17 |
| C社 | 2.5 | 3.5 | 3.5 | 4.5 | 14 |
最高スコア:B社(17点)
B社が最適な理由: 1. Political:十分なコンプライアンス体制(4点) 2. Economic:適正価格、コストパフォーマンス良好(4.5点) 3. Social:柔軟で迅速、専任体制(4.5点) 4. Technological:十分な技術力とAI知見(4点)
選定結果:B社
Phase 7:X社からB社への移行(Month 1-2)
移行プロセス: - Month 1:システム引き継ぎ(ドキュメント、ソースコード) - Month 2:B社によるシステム調査、改善提案
引き継ぎ完了後の発見:
B社の指摘: 「X社が作成したシステムには、以下の課題があります」 1. ドキュメント不足(仕様書が古い) 2. コードの保守性が低い(コメントなし) 3. セキュリティ脆弱性3件(SQLインジェクション対策不足等)
B社の提案: - ドキュメント整備:150万円 - コードリファクタリング:300万円 - セキュリティ対策:80万円 - 合計:530万円
GlobeSysの判断: - 全て実施(長期的な安定運用のため)
Phase 8:運用開始(Month 3-8)
B社の月次サポート内容:
月額45万円の内訳: - 定期保守:20万円 - 緊急対応(月5時間まで):15万円 - 改善提案・レビュー:10万円
対応速度の改善:
軽微な修正(画面文言変更): - Before(X社):依頼から21営業日 - After(B社):依頼から2営業日 - 改善:19営業日短縮(90%削減)
不具合対応(データ出力エラー): - Before(X社):10営業日 - After(B社):2営業日 - 改善:8営業日短縮(80%削減)
AI活用の提案: - B社が四半期ごとにAI活用提案 - 第1四半期:「営業データのAI分析による売上予測」 - 予算:250万円 - 期待効果:営業戦略の最適化
6ヶ月後の成果:
対応時間の削減: - 軽微な修正:年間12件発生 - Before:21営業日/件 × 12件 = 252営業日 - After:2営業日/件 × 12件 = 24営業日 - 削減:228営業日
業務への影響削減: - Before:修正待ちで業務が止まる(年間平均30日) - After:修正待ちほぼゼロ(年間平均3日) - 改善:年間27日の業務停止を回避
コスト比較: - X社:月額35万円 × 12ヶ月 = 420万円/年 - B社:月額45万円 × 12ヶ月 = 540万円/年 - 差分:+120万円/年(増加)
しかし、業務効率化効果を含めると: - 業務停止回避:27日 × 8時間 × 5名 × 4,000円 = 432万円/年 - 純効果:432万円 - 120万円 = 312万円/年
ROI: - 追加投資:120万円/年 + 改善費用530万円 = 650万円 - リターン:432万円/年 - 初年度ROI:(432万円 - 650万円) / 650万円 = -33.5%(マイナス) - 2年目以降ROI:(432万円 - 120万円) / 120万円 = 260%
PEST環境変化への対応:
Political環境の変化: - 2025年1月:改正個人情報保護法施行 - B社の対応:即座にシステム対応提案、2ヶ月で実装完了 - X社だったら:対応不明(過去に法改正対応の実績なし)
Economic環境の変化: - 2025年3月:円安進行、サーバーコスト増加 - B社の対応:クラウド最適化提案、月額5万円削減
Social環境の変化: - 2025年4月:リモートワーク推進 - B社の対応:VPN設定、クラウドアクセス最適化
Technological環境の変化: - 2025年6月:生成AI技術の進化 - B社の対応:「営業日報の自動要約」AI導入提案
組織の変化:
営業部門Aの声: 「以前は、システムの軽微な修正依頼を出しても、3週間待たされました。その間、不便な画面のまま業務をしていました。でも、B社になってから、2日で完了します。ストレスが激減しました」
システム責任者(山本)の声: 「当初、月額45万円は高いと感じました。X社は35万円でしたから。しかし、PEST分析を実施したことで、B社が最適だと分かりました。
Political:ISO27001あり、法改正に即座に対応。Economic:コストパフォーマンス良好。Social:柔軟で迅速、専任体制。Technological:十分な技術力とAI知見。
結果、対応時間が90%短縮され、業務停止が年間27日削減されました。業務効率化効果を含めると、年間312万円の純効果です。2年目以降はROI 260%です。
そして、AI活用提案も受けています。『営業データのAI分析』は、既に検討中です。B社は、単なる保守パートナーではありません。イノベーションパートナーです」
その夜、PEST分析の本質について考察した。
GlobeSys社は、「技術力が高いパートナーを選べば良い」という単純な判断をしようとしていた。しかし、外部環境——政治、経済、社会、技術——が見えていなかった。
PEST分析で4要素を評価したことで、B社が最適だと判明した。Political(コンプライアンス)、Economic(コストパフォーマンス)、Social(柔軟性)、Technological(技術力とAI知見)。この総合評価が、対応時間90%短縮と年間312万円の純効果を生んだ。
「技術だけを見るな。環境を見よ。Political、Economic、Social、Technologicalの4要素で外部環境を俯瞰せよ。パートナー選定は、環境適応の選択だ」
次なる事件もまた、外部環境を俯瞰する瞬間を描くことになるだろう。
「Political、Economic、Social、Technological。政治、経済、社会、技術の4要素で外部環境を分析せよ。環境に適応できるパートナーを選べ。そこに持続的成功がある」——探偵の手記より
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