ROI事件ファイル No.546『「使え」と言う前に、誰も使う気にさせていなかった』
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「使え」と言う前に、誰も使う気にさせていなかった
第一章:税理士が抜けて、経理が回らなくなる
「親会社の方針で、税理士との契約が終わるんです。経理業務を全部、自社でやることになる。AIで効率化したい」
GlobalTech Solutions社の経理部長、会田征一氏は、そう言いながら焦りをにじませた。「これまで税理士に任せていた業務が、丸ごと社内に降りてくる。試算すると、月四十時間以上の残業が出る見込みです」
「現状の経理業務は、どんな状態ですか」とClaudeが尋ねた。
「紙の資料が多いんです」と会田氏が答えた。「デジタル化が進んでいない。コスト削減と効率化、両方やらないと回らない。月額で十七万円ほどかかっている費用も抑えたい。将来はAIエージェントで財務・管理会計をやりたいけど、それまでの効率化が急務です」
「AIツールを入れたとして、現場は使ってくれそうですか」と私が確認した。
「そこが不安です」と会田氏が答えた。「経理は専門性が高くて、新しいツールへの抵抗もある。『使え』と言って配っても、結局元の手作業に戻る気がする。導入したのに使われない、が一番怖い」
「『使え』と言う前に、使う気にさせる段取りが要りますね」と私が応じた。「AIDMAで設計しましょう」
第二章:AIDMAが問う、関心から行動までの段取り
「この案件には、AIDMAが必要です」
Claudeがホワイトボードに「A・I・D・M・A」と書いた。
「AIDMA——Attention(注意)・Interest(興味)・Desire(欲求)・Memory(記憶)・Action(行動)の頭文字を取った、人が行動に至るまでの段階を表すフレームワークです」と私が説明した。「もとは消費者の購買行動の理論ですが、社内へのツール浸透にも効く。『使え』という号令は、いきなりActionを求めている。注意を引き、興味を持たせ、使いたいと思わせ、手順を記憶させてから、行動に導く。定着しないツール導入を、段取りで解く道具です」
「まず現状のコストを測りましょう」とGeminiがROI Polygraphを開いた。会田氏から提供されたデータを入力する。
「月間のコストが出ました」とGeminiが読み上げた。「税理士契約終了に伴う自社経理対応の増加工数が月平均百五十時間、時給四千二百円で月六十三万円。紙資料の処理・デジタル化遅延による手作業工数が月平均三十八万円。外部委託・ツール重複費用が月平均十七万円。経理処理のミス・差し戻しによる手戻りが月平均二十五万円。社内AI知見不足による導入停滞の機会損失が月平均三十万円。合計で月百七十三万円。年間換算で約二千七十六万円」
会田氏が数字を見つめた。「残業時間だけだと思っていました。紙の手作業や、使われずに止まるコストまで入れると、これほどとは」
「では、AIDMAで設計します」と私が続けた。
[Attention——AI活用に気づかせる]
「最初に、社内の注意を引きます」とClaudeが言った。「AI導入のメリットと成功事例をセミナーで示す。『使え』の前に、なぜ要るのかに気づかせる。注意がないところに行動は生まれません」
[Interest——具体的なツールに興味を持たせる]
「次に、興味を引きます」とGeminiが続けた。「紙資料をデジタル化し経理を自動化するツールのデモを見せる。抽象論ではなく、自分の業務が楽になる姿を見せると、関心が動きます」
[Desire・Memory——使いたいと思わせ、手順を残す]
「興味を欲求に変え、手順を記憶に残します」と私が続けた。「自社の課題がどう解けるかを示して『使いたい』を引き出し、機能と手順の資料を配って運用をシミュレーションする。いざ使うとき迷わないよう、記憶を作ります」
[Action——パイロット運用で行動に移す]
「最後に、行動です」とClaudeが続けた。「経理部門でパイロット運用を始める。効果を実感した上で全社に広げる。段取りを踏んでから行動させるから、配って終わりになりません」
[投資回収を試算する]
「ROI Proposal Generatorで試算しましょう」とGeminiが提案した。
- 初期費用:AIセミナー・ツール選定とデモ・紙資料デジタル化基盤・経理自動化導入・パイロット運用・研修費用合計三百七十万円
- 月次費用:ツール利用料・運用継続費合算月十六万円
- 月次削減効果:経理工数・残業削減=月五十万円(八割削減想定)、紙資料デジタル化による削減=月三十万円、外部費用・重複の解消=月十五万円、手戻り削減=月十八万円、合計月百十三万円
- 月次純削減:百十三万円-十六万円=月九十七万円
- 投資回収期間:三百七十万円÷九十七万円=約三・八ヶ月
「四ヶ月弱の回収です」とGeminiが整理した。「効くのは、いきなり全社配布せず段取りを踏む点です。注意・興味・欲求・記憶を作ってから、経理部門のパイロットで行動に移す。使う気にさせてから配るので、導入したのに使われない失敗を避けられます」
会田氏が数字を確認しながら言った。「『使え』と配るだけでした。段取りを踏むと、現場が自分から使う気になる。そこが抜けていた」
「AIDMAは、号令の前に使う気にさせる道具です」と私が応じた。
第三章:使う気にさせてから配る導入計画
「進め方を整理します」と私がホワイトボードの前に立った。
「第一ヶ月——AI活用セミナーの開催、注意の喚起。第二ヶ月——ツールの選定とデモ、興味の喚起。第三ヶ月——課題解決像の提示と手順資料の配布、欲求と記憶の形成。第四ヶ月——経理部門でのパイロット運用、行動の開始。第五ヶ月——効果検証と運用改善。第六ヶ月以降——全社展開、AIエージェントによる財務・管理会計への発展」
「税理士が抜けるまでに、間に合いますか」と会田氏が確認した。
「段取りを踏むから、かえって速いです」とClaudeが応じた。「使う気にさせずに配ると、戻りが起きて結局やり直しになる。注意から記憶まで作ってパイロットに入れば、現場が自分から使う。やり直しがない分、税理士の抜ける時期に間に合います」
会田氏がメモを取りながら言った。「行動の前に四段階ある、という発想がありませんでした。気にさせてから配れば、戻らない」
第四章:経理が、自社で回り始めた日
九ヶ月後、会田氏から報告が届いた。
懸念されていた残業は、AIツールの定着で、大幅に抑えられた。「月四十時間以上出る見込みだった残業が、十時間以下に収まった。税理士が抜けても、経理が自社で回り始めた」と会田氏は記していた。
紙資料の手作業も大幅に減少した。デジタル化が進み、処理が速くなった。「紙を探して手で入力する作業が消えた。経理の専門性が高くても、効率化できると分かった」と報告書にあった。
最も大きな変化は、ツールの使われ方に表れた。配って終わりだった過去と違い、定着した。「『使え』ではなく、使う気にさせてから配った。今回は誰も元の手作業に戻らなかった」と会田氏は記していた。
外部費用も削減された。月額十七万円かかっていたコストが圧縮された。「外部に払っていた分が減った。コスト削減と効率化が、両方立った」と報告書にあった。
副次効果として、AIへの抵抗が薄れた。段取りを踏んだことで、専門性の高い経理メンバーがAIを受け入れた。「専門職ほど新しいものに慎重だが、気づかせてから入れたら、自分から使うようになった」と会田氏は記していた。
会田氏の報告書の最後にはこう書かれていた。「ツール導入は、配れば使われると思っていた。だが本当の問題は、使う気にさせる段取りがなかったことだ。AIDMAで注意から行動まで設計した瞬間に、現場が自分から動いた。号令の前に、段取りがいる」
「使え」と言う前に誰も使う気にさせていなかった会社が、使う気にさせてから配れる会社に変わった日、業務効率化は配って終わる号令から、関心から行動まで導く段取りに変わっていた、と記されていた。
「AI導入の相談は、たいてい『使われるか』の不安がついて回る。ツールを配っても現場が元の手作業に戻る——導入したのに使われない、が最も多い失敗だ。AIDMAが問うのは、注意・興味・欲求・記憶・行動の段取りだ。『使え』はいきなり行動を求めている。気づかせ、興味を持たせ、使いたいと思わせ、手順を残してから行動させる。使う気にさせていなかった会社が、段取りを踏めた日、変わったのはAIツールではなく、号令の前に使う気にさせる視点そのものだった」
関連ファイル
使用ツール
- ROI Polygraph — 経理増加工数・紙資料手作業・導入停滞コストの可視化
- ROI Proposal Generator — 関心から行動まで導く社内浸透の投資回収シミュレーション