ROI事件ファイル No.582『欲しい機能は並べたが、戻る額を測っていなかった』
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欲しい機能は並べたが、戻る額を測っていなかった
第一章:作りたい形はある、だが決め手が出ない
「基幹システムとつながるデータ管理システムを、作れる会社を探しているんです」
GlobalBox社のIT部長、回田収氏は、そう言いながら事情を語った。ダンボールの製造業だ。「基幹はダンシスのアンサーを使っています。ただ、API連携に対応していない。CSVでのやり取りになります。クラウドは通信障害やネット遮断が怖いので、オンプレミスで組みたい。基幹のサーバー更新が数年先にあるので、そこに合わせて本格導入する想定です」
「今、いちばん困っているのはどこですか」とClaudeが尋ねた。
「版の管理です」と回田氏が答えた。「デザインデータやCADデータが、フォルダに置いてあるだけで、どれが最新か分からない。改版したのに古いデザインで刷ってしまうことがある。社内のチェックで見つけてはいますが、人が見て止めている状態です。それと、基幹には顧客情報や品質要求事項を入れる場所がない」
「展示会で見る便利なアプリも調べました」と回田氏が続けた。「ただ、必要なのは一部の機能だけなのに、全体を入れると高い。要る機能は、紙に並べてあるんです」
「その機能を入れて、いくら戻るかは、測りましたか」と私が確認した。
「……測っていません」と回田氏が答えた。「欲しい機能を並べることばかりしていました。改版ミスがいくらの損なのか、最新版を探す時間がいくらなのか。戻る額を数えたことがない」
「欲しいものを並べても、投資の良し悪しは決まりませんね」と私が応じた。「ROIで分解しましょう」
第二章:ROIが問う、注ぐ額と戻る額を突き合わせる
「この案件には、ROIが必要です」
Claudeがホワイトボードに「投資(Investment)・効果(Return)」と書いた。
「ROI——投資対効果とは、注ぐ額と戻る額を同じ物差しに載せ、比で判断するフレームワークです」と私が説明した。「肝は、機能の一覧で終わらせないこと。要る機能を並べただけでは、高いか安いかは決まらない。戻る額を金額に直して初めて、その機能が要るかどうかが言える。全体導入か一部機能かも、比が決めます」
「まず現状のコストを測りましょう」とGeminiがROI Polygraphを開いた。回田氏から提供されたデータを入力する。
「月間のコストが出ました」とGeminiが読み上げた。「最新版のデザイン・CADデータを探し、突き合わせる工数が月平均百六十五時間、時給三千八百円で月六十二万七千円。改版ミスによる再生産・廃棄の損失が月平均四十二万円。顧客情報と品質要求事項の記録先がないことによる確認往復が月平均三十四万円。社内チェックに頼った目視照合の工数が月平均三十万円。全体導入前提の高額提案を鵜呑みにした過剰投資リスクが月平均三十六万円。合計で月二百四万七千円。年間換算で約二千四百五十六万円」
回田氏が数字を見つめた。「版を間違える損だけ見ていました。探す時間や、確認の往復まで足すと、これほどとは」
「では、ROIで設計します」と私が続けた。
[投資——注ぐ額を、隠さず全部数える]
「最初に、投資です」とClaudeが言った。「オンプレミスのサーバー機材、システム構築費、CSV連携の実装、データ移行、運用の手間。表に出にくい移行と運用まで含めて数える。少なく見積もると、比が狂います」
[効果——戻る額を、金額に直す]
「次に、効果です」とGeminiが続けた。「最新版を探す時間、改版ミスの再生産、目視照合の人手。困りごとのままでは足せません。時間と枚数と単価に直せば、月いくら戻るかが出る。ここまでやって、初めて投資と並びます」
[比——機能ごとに、戻りを割り出す]
「効果の次に、比です」と私が続けた。「展示会のアプリは、全体では高い。だが機能ごとに戻る額を出せば、版管理と顧客情報の記録だけで元が取れるかが分かる。全部入りか一部かは、好みではなく比が決めます」
[時——サーバー更新に合わせて、投じる]
「最後に、時です」とClaudeが続けた。「同じ投資でも、基幹のサーバー更新と重ねれば、機材と移行の費用が一度で済む。数年先の更新まで待つ部分と、今すぐ始める部分を分ける。時期をずらすだけで、比が変わります」
[投資回収を試算する]
「ROI Proposal Generatorで試算しましょう」とGeminiが提案した。
- 初期費用:要件定義・オンプレミス機材・データ管理システム構築・CSV連携実装・版管理設計・データ移行費用合計四百七十万円
- 月次費用:サーバー保守・システム運用継続費合算月二十二万円
- 月次削減効果:最新版探索・突き合わせの解消=月四十四万円(七割削減想定)、改版ミスによる再生産の防止=月三十四万円、顧客情報・品質要求事項の一元化による確認往復の解消=月二十六万円、目視照合の削減=月二十四万円、合計月百二十八万円
- 月次純削減:百二十八万円-二十二万円=月百六万円
- 投資回収期間:四百七十万円÷百六万円=約四・四ヶ月
「四ヶ月強の回収です」とGeminiが整理した。「効くのは、欲しい機能を並べるのをやめて、戻る額を金額にした点です。一覧のままだと、高いか安いかは印象でしか言えない。比が出るから、全体導入を断って必要な機能だけを選べる。投資が空振りしません」
回田氏が数字を確認しながら言った。「必要な機能を洗い出せば決まると思っていました。戻る額を出さないと、高い安いも言えない」
「ROIは、注ぐ額と戻る額を同じ物差しに載せる道具です」と私が応じた。
第三章:比で決める導入計画
「進め方を整理します」と私がホワイトボードの前に立った。
「第一ヶ月——現行の運用の棚卸しと、戻る額の測定。第二ヶ月——機能ごとの投資対効果の算出と、実装範囲の確定。第三・四ヶ月——オンプレミス環境の構築と版管理機能の実装。第五ヶ月——CSVによる基幹連携と顧客情報・品質要求事項の移行。第六ヶ月——試験運用と効果検証。第七ヶ月以降——サーバー更新に合わせた本格展開、比の再測定」
「結局、必要な機能を全部入れたほうが、確実ではないですか」と回田氏が確認した。
「確実に高くなります」とClaudeが応じた。「全部入れると投資が膨らみ、戻る額の小さい機能が比を下げる。版管理のように戻りの大きいものに絞れば、少ない投資で早く回収でき、次の投資の原資になる。機能を数える前に、比を測ることが先です」
回田氏がメモを取りながら言った。「欲しい機能を並べる前に、戻る額を測る。順序が見えました」
第四章:戻る額が見えて、決められた日
十ヶ月後、回田氏から報告が届いた。
版の管理は、システム稼働後、大きく変わった。「最新版がどれか、フォルダを開いて日付を見比べる作業がなくなった。システムが最新を指すので、迷いようがない」と回田氏は記していた。
改版ミスも止まった。古い版での生産が、仕組みの側で弾かれるようになった。「社内チェックで見つける前に、そもそも古い版が流れない。刷り直しの損が消えた」と報告書にあった。
最も大きな変化は、投資の決め方に表れた。欲しい機能を並べる状態から、戻る額で選ぶ状態に変わった。「要る機能の一覧を持ち歩いていた。金額に直したら、どれを買ってどれを断るかが即座に決まった」と回田氏は記していた。
オンプレミスの選択も、数字で裏づけられた。通信断のリスクを金額に置いたことで、比の中で説明がついた。「怖いから、で選んでいた構成が、こう戻るから、で説明できるようになった」と報告書にあった。
副次効果として、提案の見方が変わった。全体導入の見積りに、比で対抗できるようになった。「一式でいくら、の提案をそのまま受けるのをやめた。この機能でいくら戻るか、で聞き返すようになった」と回田氏は記していた。
回田氏の報告書の最後にはこう書かれていた。「データ管理の悩みは、良いシステムが見つからないことだと思っていた。だが本当の問題は、欲しい機能は並べたのに、戻る額を測っていなかったことだ。ROIで注ぐ額と戻る額を並べた瞬間に、買うものと断るものが決まった。機能を並べる前に、戻りを測ることが先だった」
欲しい機能は並べたが戻る額を測っていなかった会社が、比で投資を決められる会社に変わった日、データ管理システムの構築は機能一覧の充足から、注ぐ額と戻る額を同じ物差しに載せる設計に変わっていた、と記されていた。
「システム構築の相談は、たいてい『こういう機能が欲しい』という形で来る。だが機能を並べる前に問うべきことがある。それを入れて、いくら戻るのか。ROIが問うのは、注ぐ額と戻る額、そしてその比だ。金額に直せば、買うものと断るものが自ずと分かれる。欲しい機能を並べていた会社が、戻る額を測れた日、変わったのはシステムの仕様ではなく、注ぐ額と戻る額を突き合わせる視点そのものだった」
関連ファイル
使用ツール
- ROI Polygraph — 最新版探索工数・改版ミスによる再生産損失・確認往復の可視化
- ROI Proposal Generator — 注ぐ額と戻る額の突き合わせを起点にしたオンプレミス型データ管理システム構築の投資回収シミュレーション