ROI事件ファイル No.592『シートは足していったが、使う人の一日を辿っていなかった』
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シートは足していったが、使う人の一日を辿っていなかった
第一章:スプレッドシートが限界だ、だが作り直す形が描けない
「生産管理と在庫管理の仕組みを、作り直したいんです」
TimberWorks社の生産管理部長、辿川通氏は、そう言いながら事情を語った。木材の加工と販売を手がける会社だ。「今はGoogleスプレッドシートの無料プランで回しています。容量の上限が近くて、古いデータを置いておけない。それに、シートが十七種類に分かれてしまって、どこに何があるか誰も把握していません」
「その十七種類は、どうやって増えたのですか」とClaudeが尋ねた。
「困るたびに足しました」と辿川氏が答えた。「入荷の記録が要る、と言われて一枚。歩留まりを見たい、と言われて一枚。乾燥待ちの在庫を分けたい、でまた一枚。そのたびに作って、そのまま残っています。編集権限も細かく分けられないので、誰かが並べ替えて別の行を壊すことがある。日報はExcelにコピーして保存し直しています」
「その十七枚は、現場の一日のどこで、誰が触るものですか」と私が確認した。
「……辿っていません」と辿川氏が答えた。「シートを足すことばかりしていました。朝から夕方まで、現場の人が何を見て、何を書いて、次に誰へ渡すのか。通しで追いかけたことがない」
「一日を辿らずにシートを足すと、継ぎ目が増えるだけですね」と私が応じた。「JOURNEYで分解しましょう」
第二章:JOURNEYが問う、一日を通しで辿る
「この案件には、JOURNEYが必要です」
Claudeがホワイトボードに「始まり・途中・詰まり・終わり」と書いた。
「JOURNEY——ジャーニーマップとは、使う人の体験を時間の順に並べ、どこで何が起き、どこで詰まるかを一本の線で描くフレームワークです」と私が説明した。「肝は、機能の一覧で考えないこと。シートを十七枚数えても、現場の一日は見えない。朝の入荷から夕方の日報まで通しで辿ると、書き写しが起きている継ぎ目と、待たされている場所が浮かびます。作るべきものは、そこにあります」
「まず現状のコストを測りましょう」とGeminiがROI Polygraphを開いた。辿川氏から提供されたデータを入力する。
「月間のコストが出ました」とGeminiが読み上げた。「日報の転記とExcelへの保存、シート間の書き写し工数が月平均百七十時間、時給三千八百円で月六十四万六千円。同じ数字を二度書くことによる不一致と手戻りが月平均四十万円。編集権限が分けられないことによる誤操作と復旧が月平均三十四万円。十七のシートを跨いだ在庫と工程の突き合わせが月平均三十二万円。容量上限による過去データの退避と呼び戻しが月平均三十万円。合計で月二百万六千円。年間換算で約二千四百七万円」
辿川氏が数字を見つめた。「入力の手間だけ見ていました。壊れたシートの復旧や、古いデータを出し入れする手間まで足すと、これほどとは」
「では、JOURNEYで設計します」と私が続けた。
[始まり——一日がどこから始まるかを、辿る]
「最初に、始まりです」とClaudeが言った。「現場の一日は、入荷した原木の受け入れから始まる。ここで書かれた樹種と等級と数量が、その日の全ての元になります。始点の記録が手書きなら、後の全てが手書きの写しになる。最初の一点を押さえるのが先です」
[途中——受け渡しの継ぎ目で、何が起きているかを見る]
「次に、途中です」とGeminiが続けた。「製材から乾燥、乾燥から加工、加工から出荷。工程が変わるたびに担当者が変わり、そこでシートが変わる。継ぎ目でしか転記は起きません。十七枚のうち、どの継ぎ目を跨いでいるかを線で結べば、埋めるべき場所が絞れます」
[詰まり——同じ数字を二度書く場所を、名指しする]
「途中の次に、詰まりです」と私が続けた。「日報をExcelに写す作業は、価値を生んでいない。乾燥待ちの在庫を別シートで数え直す作業も同じです。二度書きは必ず不一致を生み、不一致は必ず突き合わせを生む。詰まりを名指しすれば、消すべき動きが決まります」
[終わり——一日の終わりに、何が残るかを設計する]
「最後に、終わりです」とClaudeが続けた。「一日の終わりに残るべきものは、翌朝そのまま使える在庫と工程の姿です。今は日報という紙の写しが残り、翌朝また読み直されている。終わりの形から逆算すれば、途中で書くべき項目が決まります」
[投資回収を試算する]
「ROI Proposal Generatorで試算しましょう」とGeminiが提案した。
- 初期費用:現場の一日の棚卸しと工程の線引き・生産管理システム構築・十七シートの統合設計・権限設計・日報自動生成の実装・データ移行費用合計四百七十万円
- 月次費用:システム利用料・運用保守継続費合算月二十二万円
- 月次削減効果:日報転記とシート間書き写しの解消=月四十五万円(七割削減想定)、二度書きによる不一致と手戻りの解消=月三十二万円、権限分離による誤操作と復旧の解消=月二十六万円、シート跨ぎの突き合わせの解消=月二十六万円、合計月百二十九万円
- 月次純削減:百二十九万円-二十二万円=月百七万円
- 投資回収期間:四百七十万円÷百七万円=約四・四ヶ月
「四ヶ月強の回収です」とGeminiが整理した。「効くのは、シートを数えるのをやめて、一日を通しで辿った点です。十七枚を機能として並べ替えても、継ぎ目は残る。線で結ぶから、二度書きしている場所が名指しで消せる。投資が空振りしません」
辿川氏が数字を確認しながら言った。「良いシステムを入れれば済むと思っていました。一日を辿らないと、何を作ればいいかも決まらない」
「JOURNEYは、使う人の一日を通しで辿る道具です」と私が応じた。
第三章:一日を辿って組み直す導入計画
「進め方を整理します」と私がホワイトボードの前に立った。
「第一ヶ月——現場の一日の観察と、入荷から出荷までの工程の線引き。第二ヶ月——十七シートの継ぎ目の特定と、統合後の項目設計。第三・四ヶ月——入荷と製材の記録を起点にしたシステム構築。第五ヶ月——乾燥・加工・出荷への展開と権限設計。第六ヶ月——日報の自動生成と過去データの移行、効果検証。第七ヶ月以降——線の再確認、対象工程と拠点の拡大」
「結局、容量の大きい有料プランに変えれば済むのではないですか」と辿川氏が確認した。
「容量は増えますが、一日は変わりません」とClaudeが応じた。「今の困りごとの大半は、置き場所の広さではなく、継ぎ目で二度書いていることから来ている。十七枚のまま容量だけ増やせば、書き写しも不一致も、そのまま増える。器を大きくすることより、線を引き直すことが先です」
辿川氏がメモを取りながら言った。「シートを足す前に、一日を辿る。順序が見えました」
第四章:一日が一本につながった日
十ヶ月後、辿川氏から報告が届いた。
日報は、システム稼働後、書くものではなくなった。「一日の入力がそのまま日報の形で出るようになった。夕方にExcelを開いてコピーしていた三十分が、まるごと消えた」と辿川氏は記していた。
数字の食い違いも止まった。同じ項目を二度書く場所がなくなり、突き合わせが不要になった。「在庫の数が、シートによって違う、という状態が終わった。どれが正しいかを探す会議がなくなった」と報告書にあった。
最も大きな変化は、仕組みの足し方に表れた。困るたびにシートを増やす状態から、線の上のどこに置くかを決める状態に変わった。「要望が出るたびに一枚作っていた。今は、それは一日のどこで誰が触るのか、を先に聞くようになった。結果として、増やさずに済むことのほうが多かった」と辿川氏は記していた。
権限の問題も片づいた。工程ごとに触れる範囲が分かれ、誤操作が起きなくなった。「並べ替えて別の行を壊す事故がなくなった。復旧のために半日潰れることもなくなった」と報告書にあった。
副次効果として、新人の立ち上がりが速くなった。一日の流れが仕組みの形になっていたことが効いた。「十七枚の使い分けを覚えさせる説明が要らなくなった。順に入力していけば、その日の仕事が終わるようになった」と辿川氏は記していた。
辿川氏の報告書の最後にはこう書かれていた。「生産管理の悩みは、スプレッドシートの容量だと思っていた。だが本当の問題は、シートは足していったのに、使う人の一日を辿っていなかったことだ。JOURNEYで朝から夕方まで線を引いた瞬間に、消すべき継ぎ目が見えた。仕組みを足す前に、一日を辿ることが先だった」
シートは足していったが使う人の一日を辿っていなかった会社が、一日を通しで設計できる会社に変わった日、生産管理の刷新はシートの統合から、始まりと継ぎ目と終わりを線で結ぶ設計に変わっていた、と記されていた。
「生産管理の相談は、たいてい『今の管理表が限界だ』という形で来る。だが作り直す前に問うべきことがある。使う人の一日を、始めから終わりまで辿ったか。JOURNEYが問うのは、始まりと途中と詰まりと終わりだ。線で結べば、二度書きしている継ぎ目が名指しで見える。シートを足し続けていた会社が、一日を辿れた日、変わったのは管理表の枚数ではなく、現場の一日を通しで見る視点そのものだった」
関連ファイル
使用ツール
- ROI Polygraph — 日報転記・シート間書き写し工数・二度書きによる不一致・誤操作復旧コストの可視化
- ROI Proposal Generator — 現場の一日を辿る継ぎ目の設計を起点にした生産管理システム構築の投資回収シミュレーション