ROI事件ファイル No.599『来店まで追いたいと言っていたが、どこで気持ちが切れるかを見ていなかった』
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来店まで追いたいと言っていたが、どこで気持ちが切れるかを見ていなかった
第一章:購買まで追いたい、だが測る形が決まらない
「購買まで追える、独自のWEB広告測定ツールを作りたいんです」
NexMark社の企画部長、段橋察氏は、そう言いながら事情を語った。地域密着型のマーケティング会社だ。「クライアントに、電話番号をオーディエンス情報として使ったディスプレイ広告の配信を提案しています。ただ、オンラインとオフラインが分断されていて、実際に来店したのか、買ったのかが追えない」
「既存の測定ツールでは、足りませんか」とClaudeが尋ねた。
「来店への寄与の精度が低いんです」と段橋氏が答えた。「位置情報で推定はできますが、クライアントに説明できるほどの根拠になっていない。だから、購買まで追える仕組みを自前で作りたい。三ヶ月から半年で作れる外部パートナーを探しています」
「その広告で、見た人がどの段で離れているかは、見ていますか」と私が確認した。
「……見ていません」と段橋氏が答えた。「最後の購買を捉えることばかり考えていました。広告を見て、興味を持って、行きたいと思って、覚えていて、来店する。そのどこで切れているのか。段に分けて見たことがない」
「最後だけを追っても、どこを直せばよいかは出ませんね」と私が応じた。「AIDMAで分解しましょう」
第二章:AIDMAが問う、注意から行動までの段を分ける
「この案件には、AIDMAが必要です」
Claudeがホワイトボードに「注意・興味・欲求・記憶・行動」と書いた。
「AIDMA——アイドマとは、人が広告に触れてから買うまでを五つの段に分け、どこで人が減るかを見るフレームワークです」と私が説明した。「肝は、入口と出口だけを見ないこと。広告表示数と来店数の二点だけを結ぶと、間で何が起きたか分からないので、改善のしようがない。段ごとに測れば、どこで気持ちが切れているかが名指しできる。作るべき測定ツールの形も、そこから決まります」
「まず現状のコストを測りましょう」とGeminiがROI Polygraphを開いた。段橋氏から提供されたデータを入力する。
「月間のコストが出ました」とGeminiが読み上げた。「広告レポート作成と手作業でのデータ突き合わせの工数が月平均百七十時間、時給三千九百円で月六十六万三千円。効果の説明がつかないことによる継続契約の失注が月平均四十四万円。来店寄与の推定精度が低いことによる過剰な広告費配分が月平均三十六万円。オンラインとオフラインのデータが分断されていることによる分析の停滞が月平均三十四万円。改善提案の根拠不足による単価低下が月平均三十万円。合計で月二百十万三千円。年間換算で約二千五百二十四万円」
段橋氏が数字を見つめた。「レポートの手間だけ見ていました。説明がつかずに切られた契約や、根拠がなくて値切られた分まで足すと、これほどとは」
「では、AIDMAで設計します」と私が続けた。
[注意と興味——見られたか、触られたかを分ける]
「最初に、注意と興味です」とClaudeが言った。「広告が表示されたことと、目に留まったことは別です。表示数、視認された数、そして押された数。ここまでは今の仕組みでも取れる。取れているのに使われていない数字を、まず段として並べます」
[欲求——行きたいと思った痕跡を、拾う]
「次に、欲求です」とGeminiが続けた。「地図を開いた、営業時間を見た、電話番号を押した、クーポンを保存した。これらは行きたいと思った痕跡です。購買の前に必ず通る場所で、しかも計測できる。ここを取れば、来店を推定するより確かな段が一つ増えます」
[記憶——見た日と来た日の、間を測る]
「欲求の次に、記憶です」と私が続けた。「広告を見た日と来店した日には、ずれがある。当日来る人と、二週間後に来る人がいる。この間隔を測らないと、広告の効果を短く見積もって、効いている配信を止めてしまう。記憶の段は、期間の設計そのものです」
[行動——来店と購買を、確からしさつきで結ぶ]
「最後に、行動です」とClaudeが続けた。「電話番号を鍵にした照合、クーポン提示、来店時の会員照合。手段によって確からしさが違うので、断定せず、確度をつけて出す。全部を確実に結ぼうとせず、段ごとの減り方が見えれば、改善の場所は分かります」
[投資回収を試算する]
「ROI Proposal Generatorで試算しましょう」とGeminiが提案した。
- 初期費用:計測設計と段ごとの指標定義・測定ツール開発・広告配信基盤との連携・オフラインデータ照合の実装・レポート自動生成の構築費用合計五百万円
- 月次費用:システム利用料・データ連携運用継続費合算月二十三万円
- 月次削減効果:レポート作成と突き合わせの自動化=月四十六万円(七割削減想定)、効果説明による継続契約の維持=月三十六万円、広告費配分の適正化=月二十八万円、改善提案の根拠確保による単価維持=月二十四万円、合計月百三十四万円
- 月次純削減:百三十四万円-二十三万円=月百十一万円
- 投資回収期間:五百万円÷百十一万円=約四・五ヶ月
「四ヶ月半の回収です」とGeminiが整理した。「効くのは、購買の一点を完璧に捉えようとせず、段に分けた点です。最後だけを追う仕組みは、開発が重く、しかも当たらない。段ごとに減り方が見えれば、どこを直すかが言える。投資が空振りしません」
段橋氏が数字を確認しながら言った。「購買を捉えれば済むと思っていました。段に分けないと、どこを直せばいいかも言えない」
「AIDMAは、注意から行動までの段を分けて測る道具です」と私が応じた。
第三章:段に分けて測る導入計画
「進め方を整理します」と私がホワイトボードの前に立った。
「第一ヶ月——五つの段ごとの指標定義と、現在取得できている数字の棚卸し。第二ヶ月——欲求の段の計測実装と、広告配信基盤との連携。第三・四ヶ月——記憶の段の測定と、来店までの間隔の分析。第五ヶ月——電話番号照合による来店・購買の突き合わせ実装。第六ヶ月——段ごとのレポート自動生成と効果検証。第七ヶ月以降——確度の精緻化、クライアント業種ごとの指標の拡張」
「クライアントが求めているのは、購買まで追えることです。段の話で納得しますか」と段橋氏が確認した。
「購買だけを出しても、次に何をするかは言えません」とClaudeが応じた。「来店が十件でした、という報告だけでは、増やすための手が示せない。押された数は多いのに地図が開かれていない、と分かれば、広告の文言ではなく着地先を直す話になる。数字を渡すことより、直す場所を示せることが、続けてもらえる理由になります」
段橋氏がメモを取りながら言った。「購買を追う前に、どこで切れているかを見る。順序が見えました」
第四章:段が見えて、提案が変わった日
十ヶ月後、段橋氏から報告が届いた。
レポートの作成は、自動化で大きく変わった。「複数の管理画面から数字を集めて表に貼っていた作業が消えた。月初の三日間が、まるごと空いた」と段橋氏は記していた。
段ごとの減り方も見えるようになった。どこで切れているかが、クライアントごとに違うと分かった。「押されているのに地図が開かれない店と、地図は開かれるのに来ない店では、直す場所がまったく違った。同じ提案を配っていたのが間違いだった」と報告書にあった。
最も大きな変化は、提案の仕方に表れた。効果を報告する状態から、直す場所を示す状態に変わった。「今月は何件でした、で終わっていた。今は、ここで切れているので次はこうします、まで書けるようになった」と段橋氏は記していた。
継続率も上がった。根拠のある改善提案が、契約の更新につながった。「効果が説明できないから切られていた。段で示すと、続ける理由が向こうから出てくる」と報告書にあった。
副次効果として、開発の規模が小さくなった。全てを完璧に結ぼうとしなくなった。「購買まで完全追跡、という要件で見積もると一年仕事だった。段に分けたら、半年かからずに出せた」と段橋氏は記していた。
段橋氏の報告書の最後にはこう書かれていた。「広告測定の悩みは、オンラインとオフラインが分断されていることだと思っていた。だが本当の問題は、来店まで追いたいと言いながら、どこで気持ちが切れるかを見ていなかったことだ。AIDMAで段に分けた瞬間に、測るべき場所も、直す場所も決まった。購買を追う前に、段を分けることが先だった」
来店まで追いたいと言っていたがどこで気持ちが切れるかを見ていなかった会社が、段ごとに測って直せる会社に変わった日、広告効果の測定は購買の一点追跡から、注意から行動までの段を分けて減り方を見る設計に変わっていた、と記されていた。
「広告測定の相談は、たいてい『購買まで追いたい』という形で来る。だが追い始める前に問うべきことがある。どこで気持ちが切れているかを、見たか。AIDMAが問うのは、注意と興味と欲求と記憶、そして行動だ。段に分ければ、減っている場所が名指しでき、直す手が示せる。最後の一点だけを追っていた会社が、段を分けられた日、変わったのは計測の精度ではなく、途中の減り方を見る視点そのものだった」
関連ファイル
使用ツール
- ROI Polygraph — レポート作成工数・効果説明不能による失注・広告費配分の非効率の可視化
- ROI Proposal Generator — 注意から行動までの段の分解を起点にしたWEB広告測定ツール開発の投資回収シミュレーション