ROI事件ファイル No.571『安さだけを秤にかけ、他の三つが抜けていた』
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安さだけを秤にかけ、他の三つが抜けていた
第一章:安く替えたい、だが決め手が定まらない
「ワークフローシステムを、他社製品に乗り換えたいんです。ただ、どれを選べばいいのか」
Globex Corporation社の情報システム部長、衡田均氏は、そう言いながら事情を語った。「今はサイボウズのガルーンのオンプレミス版と、稟議承認専用のアジャイルワークス、二つを長く使ってきました。ガルーンのサポートが二年後に終わる。クラウド版への移行を勧められているんですが、価格が高い。アジャイルワークスも、いずれ値上がりする。通常のワークフローと稟議承認を、一つの安いシステムにまとめたい」
「選ぶとき、何を基準にしていますか」とClaudeが尋ねた。
「価格です」と衡田氏が答えた。「とにかくコストを抑えたい。だから各社の見積りを並べて、安い順に見ています。でも、安いだけで決めていいのか、迷っていて」
「価格のほかに、使い勝手や、承認の流れや、将来の変化への強さは、見ていますか」と私が確認した。
「……見ていません」と衡田氏が答えた。「コストのことばかり考えていました。使う人が満足するか、承認がスムーズに回るか、組織が変わっても対応できるか。その視点で秤にかけたことがない」
「安さという一つの秤だけでは、良し悪しは測れませんね」と私が応じた。「BSCで分解しましょう」
第二章:BSCが問う、四つの視点で総合的に測る
「この案件には、BSCが必要です」
Claudeがホワイトボードに「財務・顧客・業務プロセス・学習と成長」と書いた。
「BSC——バランス・スコアカードとは、財務・顧客・業務プロセス・学習と成長の四つの視点から、施策を総合的に評価するフレームワークです」と私が説明した。「肝は、一つの秤だけで測らないこと。財務は確かに大事だが、それ一つでは、使いにくくて誰も使わないシステムを掴む。顧客の満足、プロセスの効率、変化への強さ。四つの秤に載せて初めて、本当に良い選択が見える。偏りをなくす道具です」
「まず現状のコストを測りましょう」とGeminiがROI Polygraphを開いた。衡田氏から提供されたデータを入力する。
「月間のコストが出ました」とGeminiが読み上げた。「二つのシステムの二重運用・保守による情報システム工数が月平均百五十時間、時給三千八百円で月五十七万円。クラウド版の高額見積りを鵜呑みにした過剰コストリスクが月平均四十万円。Microsoft 365非連携による二重ログイン・情報探索の非効率が月平均三十四万円。通知不足と承認ステップの煩雑さによる稟議停滞・差し戻しが月平均三十六万円。組織変更への設定対応が属人化した保守遅延リスクが月平均三十二万円。合計で月百九十九万円。年間換算で約二千三百八十八万円」
衡田氏が数字を見つめた。「価格の差ばかり見ていました。使いにくさや稟議の停滞、二重運用のコストまで足すと、これほどとは」
「では、BSCで設計します」と私が続けた。
[財務の視点——コストを一つの秤に載せる]
「最初に、財務です」とClaudeが言った。「クラウド版の高額見積りを鵜呑みにせず、価格帯と機能が見合う他社製品を比べる。移行コストと運用コストの両方を抑える。ただし、これは四つのうちの一つ。ここだけで決めません」
[顧客の視点——使う人の満足を測る]
「次に、顧客です」とGeminiが続けた。「使うのは社員。Microsoft 365とのシングルサインオン、外部連携の有無で、日々の使い勝手が変わる。安くても使いにくければ、結局使われない。使う人の満足を、秤に載せます」
[業務プロセスの視点——承認の流れを測る]
「顧客の次に、業務プロセスです」と私が続けた。「通知機能の強化と、承認ステップの簡易化。稟議が滞らず、差し戻しが減る流れを作る。運用管理の煩雑さを解く。プロセスが回るかを、秤に載せます」
[学習と成長の視点——変化への強さを測る]
「最後に、学習と成長です」とClaudeが続けた。「組織は変わる。部署の増減や役割変更に、設定変更で柔軟に追える製品か。属人化せず、将来の成長に耐えるか。変化への強さを、秤に載せます」
[投資回収を試算する]
「ROI Proposal Generatorで試算しましょう」とGeminiが提案した。
- 初期費用:リプレイス先の選定・データ移行・SSO/外部連携設定・承認フロー再設計・運用移行費用合計四百八十万円
- 月次費用:新システム利用料・運用継続費合算月二十一万円
- 月次削減効果:二システム統合による二重運用解消=月四十万円(七割削減想定)、クラウド最適化によるライセンスコスト削減=月三十四万円、SSO・外部連携による情報探索削減=月二十八万円、承認フロー簡易化による稟議停滞解消=月三十万円、合計月百三十二万円
- 月次純削減:百三十二万円-二十一万円=月百十一万円
- 投資回収期間:四百八十万円÷百十一万円=約四・三ヶ月
「四ヶ月強の回収です」とGeminiが整理した。「効くのは、安さだけで選ばず、四つの視点で総合的に測る点です。財務だけで決めると、使いにくいシステムを掴んで結局使われない。四つの秤に載せるから、コストも満足も後から崩れない。投資が空振りしません」
衡田氏が数字を確認しながら言った。「安く替えれば済むと思っていました。四つで測らないと、安物買いになる」
「BSCは、四つの視点で偏りなく測る道具です」と私が応じた。
第三章:四つの秤で選ぶ導入計画
「進め方を整理します」と私がホワイトボードの前に立った。
「第一ヶ月——四つの視点の評価基準の設定と、現状の棚卸し。第二ヶ月——リプレイス候補の選定と、四視点での比較評価。第三・四ヶ月——新システムの構築とデータ移行。第五ヶ月——SSO・外部連携の設定と承認フローの再設計。第六ヶ月——試験運用と効果検証。第七ヶ月以降——組織変更対応の定着、四視点の継続的な見直し」
「結局、安いシステムを選べば、コストは下がりますよね」と衡田氏が確認した。
「そこが落とし穴です」とClaudeが応じた。「財務だけで選ぶと、使いにくくて誰も使わない、稟議が滞る、組織変更に追えない——見えないコストが後から膨らむ。BSCで四つの視点を揃えて測れば、安さと使い勝手と将来性が同時に立つ。四つの秤に載せることが、結局いちばん安く済む道です」
衡田氏がメモを取りながら言った。「価格を比べる前に、四つの視点で秤にかける。順序が見えました」
第四章:四つの秤で、選べた日
十ヶ月後、衡田氏から報告が届いた。
二重運用は、統合後、大きく変わった。「ガルーンとアジャイルワークスを別々に保守していたのが、一つのシステムにまとまった。二重の運用に取られていた手が、空いた」と衡田氏は記していた。
使い勝手も上がった。Microsoft 365とのシングルサインオンが、日々のログインの手間を消した。「安いだけの製品を選ばずに済んだ。使う社員から、使いやすくなったと声が上がった」と報告書にあった。
最も大きな変化は、選び方に表れた。安さだけを秤にかける状態から、四つの視点で測る状態に変わった。「価格の差ばかり並べていた。四つの秤に載せたら、コストと満足とプロセスと将来性が一望できて、迷わず選べた」と衡田氏は記していた。
稟議の流れも変わった。通知の強化と承認ステップの簡易化が、稟議の停滞を解いた。「差し戻しと待ち時間が減った。承認が、詰まらず回るようになった」と報告書にあった。
副次効果として、システム選定の見方が変わった。安さで飛びつかず、四つで測る発想が根づいた。「見積りの安い順に見るのをやめた。財務・顧客・プロセス・成長で揃っているか、で考えるようになった」と衡田氏は記していた。
衡田氏の報告書の最後にはこう書かれていた。「ワークフローの乗り換えは、安いシステムを見つけることだと思っていた。だが本当の問題は、コストという一つの秤しか持たず、他の三つが抜けていたことだ。BSCで四つの視点に載せた瞬間に、良し悪しが測れた。安さを比べる前に、四つで秤にかけることが先だった」
安さだけを秤にかけて他の三つが抜けていた会社が、四つの視点で選べる会社に変わった日、システムのリプレイスは価格比較から、財務・顧客・業務プロセス・学習と成長で総合的に測る設計に変わっていた、と記されていた。
「システム乗り換えの相談は、たいてい『安く替えたい』という形で来る。だが価格を並べる前に問うべきことがある。測る秤は、一つで足りるのか。BSCが問うのは、財務・顧客・業務プロセス・学習と成長の四つの視点だ。四つの秤に載せれば、安さと使い勝手と将来性が同時に見える。安さだけを秤にかけていた会社が、四つで測れた日、変わったのはシステムの価格ではなく、四つの視点で偏りなく選ぶ視点そのものだった」
関連ファイル
使用ツール
- ROI Polygraph — 二重運用工数・過剰コストリスク・稟議停滞の可視化
- ROI Proposal Generator — 四つの視点での総合評価を起点にしたワークフローシステムリプレイスの投資回収シミュレーション